68話 お肉を食べると気持ち悪くなるらしい
「残念だけど、クアウラさんたちの言う通り、一度植え付けられたりりちゃんへの恐怖心は、簡単には消せないのかも」
「とりあえず、今週末の生贄の神事は取りやめるよう、私たちが働きかけますが、保守派の長老たちが話を聞いてくれるかどうかは微妙な所です」
そう語るクアウラによると、シグベルムの議会には幾つもの派閥があるが、特に古いしきたりを尊ぶ保守派が幅を利かせているらしい。
「しずく様、生贄の儀式はヴィリオーサ様が望んだことではない──それは、本当のことなのですよね?」
「ええ、そうですよ。りりちゃんは、ひどい誤解だと悲しんでいました。そもそも、りりちゃんが好む食べ物は果物や穀物で、肉は大の苦手だそうです」
「……は?」
「……えっ?」
二人がぽかんとして固まっている。
「ちなみに、特に目がないのは甘い物で、生クリームをたっぷり添えたパンケーキが気に入ったみたいでした。あ、それとサツマイモも好物の一つかもしれません!」
「ヴィリオーサ様は肉食ではなかったのか……!」
「驚きました。ヴィリオーサ様は竜種なので、僕もてっきり肉食だとばかり──」
そんな二人に抗議したのは、シュクレドラゴンたちだった。
「竜だからって、みんなお肉が好きだと思ったら、大きな間違いきゅるよ!」
「りりちゃんは神竜きゅる。ももたちと違って、神竜は特にけがれを嫌うから、血のしたたるようなお肉は食べないきゅる」
「ぽぴーは、お肉もお野菜も好きだけど、もっと好きなのは、お砂糖や花の蜜きゅる!」
「なんと! それは初耳です」
「僕もです。だけどそれなら、神竜であるヴィリオーサ様が、生贄を求めるはずがありませんね」
急に目の前の霧が晴れたような表情をした二人に、しずくが問いかける。
「ところで、神様に生贄を捧げるというのは、わりとよくあることなんですか?」
「ええ。決して珍しい事ではありません。自分たちよりも高位の存在に生贄を捧げる代わりに、守護してもらう種族は数多くいます」
「そうなんだ……」
しずくにとっては、かなり時代錯誤なことのように思えるが、この世界においてはそうではないらしい。ワトルが、更に詳しく説明する。
「特に、僕たち犬人族のように力が弱い種族の間では、そのようなことが盛んに行われています。古い文献によると、僕らの先祖も、戦乱で国を追われてこの土地にたどり着く前は、土着の神に赤子を生贄に捧げることで他国からの侵略を防いでもらっていたようです」
「え? それって、今の状況と全く一緒じゃないですか!」
その言葉を聞いた、クアウラとワトルが「あっ!」と声を上げた。
「言われてみればそうかもしれん……!」
「この辺り一帯に住まう神であるヴィリオーサ様に生贄を捧げ、代わりに国を守護してもらう──確かにやっていることは全く同じです……!」
「もしかして、りりちゃんはお二人のご先祖様たちに、その生贄の儀式を押し付けられたのでは?」
しずくの言葉は、神官の二人を衝撃で凍り付かせるのに、十分な威力を持っていた。




