63話 孤独な功労者
「ヴィリオーサ様が、〈豊穣の神〉ですと!?」
「ま、まさか、そんなことが──」
クアウラとワトルは、耳をピンと立ててそうつぶやいたきり、言葉を失った。
今までずっと、ヴィリオーサは生贄を喰らう悪竜だと思い込まされていたのだから、彼らがこの話を簡単に信じられないのは、仕方がないことなのかもしれなかった。
「りりちゃんが、〈豊穣の神様〉だったなんて、ねりねはびっくりしたきゅる!」
「ぽぴーは、りりちゃんは強そうなドラゴンだから、もっと、どかーんで、ばばーんみたいな神様だと思っていたきゅる」
「しずくちゃんは、いつ気が付いたきゅる? ももに教えてほしいきゅる」
クアウラたちと同様に驚いている三匹が、はしゃぎながらカウンターの中に駆け寄って来た。
「最初に違和感を覚えたのは、マスターにシグベルムの名物を教えてもらった時だったかな」
「そんなに早くから気付いていたきゅるか?!」
「この店がある草原は一日の寒暖差が結構激しいのに、さほど離れていないシグベルムで、寒暖差に弱いスイカやメロンみたいな果物がとれるのはどうしてなのかなって、不思議に思ったんだよね」
「でも、マスターは、シグベルムは一年中温暖な気候だって、言っていたきゅるよ?」
「うん。だから私も、最初は火炎竜であるりりちゃんが火属性の権能を使って、シグベルムをあったかくしているのかな、って考えていたんだけど」
その時、空模様を見ていた一体のごーちゃんが、じょうろを倉庫へ片付けに行くのが、ちらりと見えた。
「店の外にあるプランターを見た時に、そうじゃないのかも、って気付いたの」
「どういうこときゅる?」
しずくは、今朝早く店の外を見に行った時に、昨日ヴィリオーサがいたと思しき場所にだけ雑草が生い茂っていて、プランターに植えたばかりの花が満開になっていたことを説明した。
「知らなかったきゅる!」
「ふふ。みんなも後で見に行ってごらん。りりちゃんが店の中をのぞき込んでいた窓の下のあたり──雑草に混ざってサツマイモの葉っぱがもっさり生えていたよ!」
最初に発見した時は、自分がまだ寝ぼけているのかと思い、何度も目を擦ったしずくである。
「りりちゃん、お野菜まで生やしていたきゅるか?」
「そうみたい。きっと無意識にを権能を発動させちゃったんだろうね」
「りりちゃんが〈豊穣の神様〉だっていう手がかりは、実はいっぱいあったきゅるね」
「あの育ちっぷりだと、あと二、三日で収穫できるかも。その時はみんなでお手伝いしてね」
「わかったきゅる!」
「楽しみきゅる!」
「りりちゃんは、サツマイモが好ききゅるか?」
「無意識に生やしてたってことは、そうなのかもね。収穫したら、スイートポテトでも作ってあげようかな」
サツマイモは温暖な気候を好む。
そのことから察するに、ヴィリオーサは土壌を豊かにするだけでなく、土の温度をある程度調節することも可能なのだろう。
おそらく彼女は、温度を上げた土が熱を放射して空気を温めるのを上手く利用して、好物のサツマイモが生育しやすい環境を部分的に作り上げたのだ。
現在のシグベルムの繁栄は、彼らが恐れている守護神竜──ヴィリオーサの権能によって支えられいると言っても過言ではないだろう。
だが、その偉大な功労者であるヴィリオーサは、シグベルム人から凶暴な竜だと恐れられ、マスターの心無い言葉に傷つけられて、今頃はひとりぼっちで泣き濡れているに違いない。
ヴィリオーサがずっと望んでいたこと──独りで淋しい思いをしなくてもいいように、人々と交わりながら生きること──を可能にするためには、彼女が生贄を強要する恐ろしい神だ、と思い込んでいるシグベルム人の誤解を解くことが不可欠だ。
そのためにはまず、生贄の神事が行われるようになった経緯や、彼女が人々から恐れられるようになった原因について、きちんと調べておく必要があった。




