62話 りりちゃんの正体
「わかった! しずくちゃん、それって、りりちゃんのこときゅるね?」
「そうか、答えはヴィリオーサ様だったのですね!」
ほぼ同時に声を上げたのは、ポピーとクアウラだった。
「待ってください。僕にはわかりません。なぜヴィリオーサ様の存在が、作物の収穫量の差に関わってくるのですか?」
わけがわからないという表情のワトルに、しずくが説明する。
「それは、りりちゃんがシグベルムの土地を豊かにして、作物が育つのを助けてきたからです」
「ヴィリオーサ様が土地を豊かに? そんなことはあり得ません。火炎竜にそのような力はありませんよ、しずく様」
「ええ、そうでしょうね。だから、りりちゃんが火炎竜だというのは間違いなんです」
「は?」
呆けてしまったワトルに、しずくが困ったように笑いかける。
「まあ、すぐには信じられないでしょうけど、これは本当の事なんですよ」
「そんなバカな! 建国当時に書かれた古い資料には、『国を守護する契約を交わした紅色の火炎竜は、口から吐く恐ろしい劫火で、我らが畑を作ろうとしていた土地を焼きつくした』と、はっきり記されているのですよ?!」
「それは多分、作物が育ちやすいように土を焼いて、雑草の種や病害虫を駆除してくれたのだと思います」
しずくが土壌消毒について詳しく説明すると、彼らの間にはそのような知識がなかったらしく、クアウラまでもが呆然としていた。
「きっと、当時の人は、恐ろしい外見をしたりりちゃんが、大地に向かって炎を吐いている姿を見て、勝手に火炎竜だと思い込んだのでしょうね」
「知らなかったきゅるか? 神竜は火属性でなくても、炎を吐くことはできるきゅるよ?」
「し、知りませんでした……」
「ヴィリオーサ様の体色が赤系統なので、てっきり火炎竜なのだと決めつけておりました」
以前、ポピーたちから聞いた話だと、僅かな例外を除き、この世界の竜の体色は、青系統なら水、赤系統なら火、白系統なら光、黒系統なら闇、というように、その竜が持つ権能と密接に関わっているらしい。
ヴィリオーサの体の色は、深みのある紅色──つまり、赤系統だったため、なおさら火属性の権能を持つ竜だと誤解されたのだろう。
だが、実際には、シュクレドラゴンと同様に、彼女もまた、僅かな例外に当てはまる竜だったのだ。
「で、では、毎年シグベルムだけが豊作で、周辺国と比べて作物の出来が格段に良いのは、本当にヴィリオーサ様の権能によるものだったのか!」
「じゃあ、ヴィリオーサ様の本当の権能とは──」
ごくりとつばを飲み込んだクアウラとワトルに、しずくがうなずいた。
「おそらく、土壌を豊かにする力なのだと思います」
今朝しずくが店の外に出た時、ヴィリオーサがいた場所にだけ雑草が異常に生い茂っていたのも、植えたばかりのプランターの花が満開になっていたのも、そう考えれば説明がつく。
「つまり、りりちゃんの正体は、〈劫火を司る炎の神〉ではなく、大地や作物に恵みを与える〈豊穣の神〉だったんです」




