60話 クアウラたちからの報告
傷ついたヴィリオーサの心を、そのまま具現化したような土砂降りの雨は、夜半過ぎには止んでいた。
だが、朝になっても、空にはどんよりとした厚い雲が垂れこめており、いつ雨が降って来てもおかしくなかった。
開店して間もなく、〈喫茶シルエ〉を訪れたクアウラとワトルは、カウンターの角でくたりと横たわってそっぽを向いているマスターに気付くと、怪訝そうな顔をした。
「あの、マスター様は具合でも悪いのでしょうか?」
「もしや、昨日に聞こえた恐ろしい咆哮と何か関係が? あれはヴィリオーサ様の声ですよね?」
「え? あの声って、シグベルムまで届いていたんですか?! 驚かせてしまってごめんなさい!」
「あ、いえ、われわれの事はともかく、しずく様たちがご無事で何よりです。もしや、ヴィリオーサ様がこちらで暴れたのかと思い、みな心配していたのです」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、りりちゃんは優しいからそんなことはしませんよ。あれは、マスターにひどい事を言われて傷ついたりりちゃんが、悲しみのあまり叫んだ声だったんです」
「りりちゃん──ですか?」
首を傾げたクアウラにポピーが説明する。
「ヴィリオーサって言いにくいきゅる。だから、りりちゃんって呼ぶことにしたきゅる!」
「な、なるほど、そういうことでしたか」
「すると、マスター様がヴィリオーサ様を懲らしめたということですか?!」
興奮するワトルに、しずくが苦笑する。
「違います。マスターは内気な女の子にひどい言葉を投げつけて、彼女の心を傷つけたんです。そのことで、私たちから散々怒られたせいで、今はあの通りいじけていますけどね」
「……ヴィリオーサ様が、内気な女の子?」
「ひどい言葉を投げつけられて、あのヴィリオーサ様が逃げ出した?」
しずくとマスターを何度も見比べた二人は、戸惑った様子で立ち尽している。
「お客様、こちらのお席にどうぞきゅる」
だが、モモに案内されて、カウンター近くのテーブル席に腰を下ろした彼らは、ここに来た本来の目的を思い出して表情を改めた。
「ところで、お願いしていた件は、どうなりましたか?」
「ええ。全て調べがつきました──ですが、正直に申し上げて、かなり驚きました」
二人に淹れたてのコーヒーを出したしずくが、カウンターの中から問いかけると、すぐにクアウラが答えを返す。まるで、質問されるのを待ちかねていたかのようだ。
二日前、しずくがメモに書いて二人の神官に調査を依頼したのは、次の四つの事だった。
一、赤子を生贄にされた家族がその後どうなったのか
二、百五十年前に孤児院に預けられた子供の記録
三、シグベルムで育つ作物の収穫量と、周辺国の収穫量との比較
四、周辺国の大まかな気候について
「一と二に関しては、少々込み入った話になりますので、まず先に、三と四についてご説明いたします」
クアウラはそう言うと、しずくによく見えるように、カウンターの上に資料を広げた。
そこには、シグベルムと周辺国における、直近十年分の作物の収穫量が、分かりやすく数字で示されていた。




