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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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58話 見た目で損をする

 ずっと巣の中で気を()んでいたヴィリオーサは、そうこうしている間に、自分の庇護下(ひごか)にあるシグベルム人たちがこの店に向かったことを察知して、いざとなったら彼らを守ろうと思い、思いきって重い腰を上げたのだそうだ。


「またしても、あなたのせいでしたか……」


 忌々(いまいま)し気にマスターがつぶやくと、ちょうどホールケーキに顔を突っ込んでいた〈白い死神〉が、生クリームまみれの顔を上げて小首を傾げて見せた。


「くっ! あざとい! 何だかムカつきます!」

「まあまあ。ちょっと落ち着こうよ。結果的に見れば、小鳥さんが来てくれたおかげで、りりちゃんやクアウラさんたちがこの店の存在に気付けたんだし。だから、今回は少しだけ多めに見てあげてもいいんじゃないかな?」

「はあ。仕方がないですね。では、しずくさんに免じて、今回だけはちゃっかりぼくらに紛れ込んでケーキをむさぼっていることについても許してあげましょう」


 正式にマスターから許しを得たことで安心したのか、〈白い死神〉は凄まじい勢いでケーキを食べ尽くすと、遠慮なく二つ目のホールケーキに顔を突っ込んだ。


 ──小鳥さんって、肥満や糖尿の心配はないのかな?


 しずくが少しだけうらやましく思っていると、ヴィリオーサが新たな文章を書き出した。


「ん? これは──昨日急に飛び跳ね出した理由について書いてくれたの?」


 昨日、彼女が帰り際に何度も飛び跳ねたのは、店内をのぞき込んで様子を伺っていた時に、しずくが彼女の事を「悪い竜ではない」と言って擁護(ようご)してくれたのを聞いて、喜びを抑えられなかったからだそうだ。


「そっか。小鳥さんが言っていた通り、本当に喜んでいたんだね」


 だが、しずくに笑いかけられたヴィリオーサは、急に悲しそうな顔をすると、そっと新しい紙を差し出した。

 そこに書かれていたのは、「わたしの容姿や声があまりにも醜くて恐ろしいせいで、みんながわたしの事を悪い竜だと思ってしまう」という、悲痛な言葉だった。


「それは……」


 しずくが何も言えないでいると、小さな紅色のドラゴンは、まるで今までずっと抱えていた悲しみをぶつけるかのように、もの凄い勢いで文字を書き出した。

 乱れた文字で(つづ)られる文章を読んでいくにつれ、だんだんとしずくたちの表情が曇っていく。


 彼女を創り出した創造神ゼオロビムからも、「お前の姿は大勢の人を怖がらせる」と言われ、すっかり心が(ふさ)いでしまったヴィリオーサは、シグベルム共和国の建国の祖となる犬人族たちと偶然出会うまでのおよそ数千年間を、ポリュグ山の自分の巣に引きこもって過ごしていたらしい。

 その間、彼女はほとんど誰とも顔を合わせようとせず、何百年かに一度食事を取る時以外は、ほとんど巣の中で眠っていた。

 ちなみに、彼女は肉類が大の苦手で、普段口にしているのは、穀物や果物ばかりだそうだ。




「思っていた以上に、年季の入った引きこもりだった……」

「りりちゃんが姿を変えて声を出さないようにしていたのは、ぽぴーたちを怖がらせたくなかったからきゅるね」

「何も悪いことをしていないのに、見ただけで悪い竜だと決めつけられるだなんて、悲しいきゅる」

「でも、ももがもし同じ目に遭ったら、きっとりりちゃんと同じことをしていたきゅる」


 ヴィリオーサは、自分がシグベルムの人々から、生贄(いけにえ)を欲する凶暴な竜だと誤解されていることを知っていた。もちろんその誤解は解きたいが、その一方で、自分の恐ろしい容姿を見せて彼らを怖がらせてしまうことを恐れたらしい。

 悲しそうにうつむいてしまった紅色の竜を、シュクレドラゴンたちが心配そうに見つめている。


「こんなに優しくて良い子なのに、なんて理不尽なんだろう……」


 だが、しずくたちが、しきりに気の毒がっているのとは対照的に、何故かマスターは(いぶか)し気な表情でいる。


「なるほど、あなたの事情はよくわかりました。ですが、だからといって一言も話そうとしないのは、少し気にしすぎなのでは? どんなに恐ろしい声でも何度も会話していれば、そのうち気にならなくなるでしょうに」


 ヴィリオーサは反論すらできないままで、ますます体を縮こまらせて泣きそうになっている。見かねたしずくが両名の間に割って入った。


「マスター。もう少し、りりちゃんの気持ちを考えてあげようよ」

「ですが、しずくさん。本当は声が出せるのに、こうしてずっと筆談でやり取りするのは、まどろっこしいとは思いませんか? それに、本当に自分に対する誤解を解きたいのなら、声に出してきちんと意見すべきなのでは?」


 マスターの意見が完全な間違いではないことを、きっとヴィリオーサ自身もわかっているのだろう。彼女はゆっくりと顔を上げると、こわごわとマスターの顔を見た。



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