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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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56話 かわいらしい客の正体

 カウンターチェアの高さを調整してもらい、ようやく調理する様子を見られるようになった紅色のドラゴンは、見るからに嬉しそうだった。


「なんだ、そうだったんだ。調理に夢中で全然気づかなかった! そういうことなら、これは(まかな)いにして、お客様の分は新しく作り直しますね!」


 ポピーから事情を聞いたしずくは(ほが)らかに笑うと、紅色のドラゴンから良く見えるよう意識しながら、新しいパンケーキを焼き始めた。

 いちごパフェ担当のごーちゃんたちも、なるべくゆっくり調理することで、小柄な客の目を楽しませようとしている。

 料理がで出来上がっていくのを、ワクワクした様子で眺めていた紅色のドラゴンは、目の前に料理が並べられると、うっとりとした表情を浮かべた。


「お味はどうですか? 気に入ってもらえたらいいんだけど……」


 心配そうなしずくの目の前で器用にフォークを使い、ぱくりとパンケーキを口に入れた紅色のドラゴンは、きらきらと目を輝かせながら短い足をぱたぱたと動かした。

 カウンターチェアから垂れた尻尾が、ぶんぶんと高速で振られているところを見ると、どうやらいたくお気に召したようだ。

 相変わらず一言も話さないが、感激した顔でしずくを見つめて何度もうなずいたり、体を小刻みに揺らしたりして、一生懸命に美味しさを伝えてくる。


(……もしかして、この子って言葉が話せないのかな?)


 しずくとポピーが戸惑いながらそっと顔を見合わせていた時、マスターが放った一言が、そんな彼らの疑問を一気に吹き飛ばした。




「──姿を変えているようですが、あなた、ヴィリオーサですよね?」







 言葉の意味が理解できずに呆けていたしずくが、一呼吸おいてからやっと我に返る。


「え? マスターってば、何を言っているの? まさか、そんなはずがないよ。ほら、見てよ。昨日の竜とは体の大きさが全然違うでしょ?」


 カウンターの端からぱたぱたと飛んで来て、しずくのそばに着地したマスターは、はあ、と深いため息をついた。


「しずくさん、神竜のように強い力を持つ神であれば、自分の姿を変えるくらい、造作もないことなのですよ」

「そうなの?! でも、まさか──」


 そんなことがあるだろうか──と、しずくが視線を戻すと、ぴしりと固まった紅色のドラゴンが、だらだらと異常なほどの冷や汗をかきながら、小刻みに震えていた。


「わかりやすいにも程がある!」

「こんな反応をされたら、何だかぼくが悪者みたいです……」


 紅色のドラコンが神竜ヴィリオーサであることは、もはや明白だった。何しろ、自分の態度ではっきりとそう示してしまっている。

 マスターは、変化したヴィリオーサが店を訪れた時点で正体に気付いていたらしく、どういうつもりで店に来たのか、それとなく様子を見張っていたらしい。


「あ、ちょ、待って、泣かないで!」

「そんなに怖がらなくてもいいきゅる。誰も怒ってないきゅる」

「大丈夫だから、泣き止むきゅるよ~」

「ごーちゃんが、ホットミルクを持ってきてくれたきゅる! これを飲んで落ち着くきゅる!」


 だが、警戒していた相手が、親に叱られた幼子のようにグズグズと泣き出してしまい、さすがのマスターも戸惑いが隠せないでいた。




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