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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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55話 恥ずかしがりやのドラゴン

「お好きなお席にどうぞきゅる!」


 しずくが客の体を()き終えたのを見計らい、トレイを抱えたポピーが元気に案内する。自分たちによく似た姿の客ということで、普段よりも張り切っているようだ。

 だが、大きな声にビクついた紅色のドラゴンは、不安そうに何度も店内を見渡した後、カウンターの中に戻ったしずくに、助けを求めるような視線を向けてきた。


(あ、もしかして……)


 無言の紅色ドラゴンから、もの言いたげな目で見つめられたしずくは、相手を不安にさせないように笑顔を浮かべ、穏やかに話しかけた。


「もし、カウンター席が宜しければ、こちらへどうぞ」


 途端にぱっと顔を輝かせた紅色のドラゴンは、カウンターの前までいそいそとやって来ると、コウモリのような翼をぱたぱたと羽ばたかせて体を浮かし、しずくの目の前の席にちょこんと収まった。


「お水をどうぞきゅる。こちらはメニューですきゅる」


 先程、大きな声で驚かせてしまったことを反省したのか、今回のポピーの声量はかなり(おさ)えられている。

 緊張した顔をしたポピーからメニューを手渡された紅色のドラゴンは、恥ずかしそうにぺこりと頭を下げた。


(なんだかかわいらしくて癒されるなあ)


 小さなドラゴン同士の微笑ましいやり取りを、間近から眺めていたしずくは、自然と顔を綻ばせていた。




 いまだに一言も話そうとしない、恥ずかしがりやのドラゴンが注文したのは、いちごパフェと、ホイップクリームをたっぷり乗せたパンケーキだった。

 メニューに載っている料理の写真を指さすことで、希望する料理を無事に注文し終えた紅色のドラゴンは、やり遂げた感をにじませた顔で、うくうくと水を飲むと、カウンター内のしずくに視線を向けた。

 どうやら、調理する様子が見たいらしく、カウンターチェアの座面に乗せたお尻をもちょもちょさせているが、パンケーキ作りに集中しているしずくは全く気付かない。

 一言(ひとこと)、「調理が見たい」と声をかければ良いだけの話なのだが、そんなささいなことですら、内気そうなドラゴンにとっては難易度が高いようだった。

 調理が進むにつれて、何も言えないままでいる紅色のドラゴンがだんだんと悲しそうな顔になっていく。


「お客様、どうかしたきゅるか? なにかお困りきゅる?」


 異変にいち早く気づいたのは、近くでさりげなく水のおかわりの頃合いを見計らっていたポピーだった。

 だが、当のドラゴンは、恥ずかしそうにもじもじするばかりで、一向に返事をしようとしない。

 困り果てたポピーがオロオロしていると、パフェグラスを磨いていたごーちゃんが、てこてこと歩いてきて、紅色の小さなドラゴンが座っているカウンターチェアを指さした。


「? お客様の椅子が、どうかしたきゅるか?」


 するとごーちゃんが、首を傾げるポピーの目の前で、何かを持ち上げるような仕草(しぐさ)を見せた。どうやら、ごーちゃんは、客が望んでいることを察したらしい。


「ごーちゃんは、椅子を高くしろと言っているきゅる?」


 コクコク、とごーちゃんがうなずく。


「もしかして、お客様はお料理するところを見たいきゅる?」


 ごーちゃんが両手で大きな丸印を作ったのと同時に、紅色のドラゴンが嬉しそうな顔で大きくうなずいた。




お読みいただきありがとうございます!

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