53話 うっかりのほうがタチが悪い
「でもでも、しずくちゃん。神官さんたちは、火炎竜はポリュグ山を噴火させることができる、って話していたきゅるよ?」
「ああ、確かにそんなことを言ってたね! ……そっか、だからモモは、さっきからずっと腑に落ちない顔をしていたんだね」
「きゅる……」
三匹のシュクレドラゴンのうち、唯一の女の子で一番内気なモモは、恥ずかしそうに短い爪の生えた手をにぎにぎしている。
初めて出会った時は、頭の上にある模様でしか見分けがつかなかったしずくだが、今では彼らの性格の違いがはっきりわかるため、ちょっとした仕草を見ただけで、誰なのかを見分けることができる。
「実はその話については、私も気になっていたからマスターに確認したんだけど、やっぱりクアウラさんたちの話は事実じゃないんだって」
「きゅる?」
「トルタタさんをここに呼べるか聞いた時、マスターが、『この辺りには火山がない』って言っていたから、何かおかしいと思っていたんだよね……」
しずくが苦笑しながらつぶやいていると、そばにやってきたマスターが、困惑顔のモモに説明した。
「おそらく、あの話はヴィリオーサの恐ろしさを誇張しようとして、捏造されたものなのでしょう。だいたい、ポリュグ山は火山ではありませんからね」
「きゅる?!」
そもそも、今この店があるムストルガ大陸の北側には、火山地帯そのものがないらしい。
「普通、火属性の権能を持つ神は、火山などの火の気が強い場所を好みます。ですが、ヴィリオーサの住処があるポリュグ山は、それらの条件とは全く一致していません。だからぼくも、『ヴィリオーサは火炎竜ではない』という、しずくさんの考えを全面的に支持します」
にこやかにそう告げるマスターに、しずくがジト目を向けた。
「ちょっと待って。支持するも何も、よく考えてみたら、マスターはお仕えしていた神様からヴィリオーサという神様の話を聞いていたんだよね? だったら、どんな権能を持っているのか既に知っているんじゃないの?!」
「そうきゅるか? だったら、ねりねたちにもに教えてほしいきゅる!」
しずくが顔を真っ赤にして「あー、恥ずかしい! ポピーたちに思わせぶりなことを言っちゃったよ……」と嘆きながらカウンターに突っ伏すと、慌ててマスターが弁解してきた。
「ちょっと待ってください! それは誤解です! 確かにぼくは、ヴィリオーサという名前の神竜について話を聞いていましたが、権能が何だったかまでは覚えていないんです!」
「えー? ホントかなあ?」
「ほんときゅるかー?」
「あるじ様、本当きゅるー?」
「きゅるきゅるー?」
「ひどい! なんで全員で疑うんですか?!」
羽の生えたかわいらしい白蛇が、涙目になっている。
「だって、マスターって、いっつも肝心な事は秘密にしているでしょ? だから今回もそうなんじゃないの?」
「そんな! ぼくは別に秘密にしていたわけではありませんよ! ただ、うっかり教えることを忘れていただけで──」
「なおさらダメでしょ!」
しずくからバッサリと切り捨てられ、マスターがガクリと項垂れた。




