52話 ぽかぽかにならないということは
「しずくちゃん、それはどういうこときゅる?」
「ももたちにも、教えてほしいきゅる!」
意味がわからずにいるポピーとモモが、カウンターに背伸びしながらせがんでくるのを見て、しずくがクスリと笑みをこぼす。
「モモたちは、〈炎熱の神〉のトルタタさんがお店に来ると、コップのお水がいつの間にか熱湯になっていたり、テーブルの周りが温かくなっていたことに気付いてた?」
「もちろん、ももは気付いていたきゅる! いつもトルタタさんの周りは、ぽかぽかしてたきゅる!」
「それは、トルタタさんの炎熱の神気が、ほんのちょっと漏れ出ているせいだ、ってマスターが教えてくれたきゅる!」
「お! ポピーはそこまで知っているんだね。私も、マスターから教えてもらったんだけど、強い神様が完全に神気を抑え込むのは、とても大変なことなんだって。だから、トルタタさんも、このお店に来た時は、いつも頑張って神気を抑えてくれていたらしいよ?」
「それは、知らなかったきゅる!」
「トルタタさんは、強い神様だったきゅるね!」
ポピーとモモがそろって目を丸くしている。
「はい。ではここで問題です! 昨日店に来たヴィリオーサという竜は強いでしょうか?」
にこにこしながら問いかけたしずくに、ポピーが即答する。
「もちろん強いに決まっているきゅる! いっぱいいる神様たちの中で、神竜の強さは別格だって、あるじ様が言ってたきゅる!」
「同じ竜でも、ももたちとは比べものにならないきゅるよ!」
「じゃあ、そんなに強くて巨大な竜が、神気を抑えずに近くまで来たらどうなると思う?」
しばらく考え込んでいたモモが、嬉しそうに顔を上げる。
「あの竜さんは火炎竜だから、きっと火属性の神気で、あったかくなるきゅる!」
「もも、それは少しだけ間違っているきゅる! 神竜なんだから、きっと神気がいっぱいあるきゅる!だったら、あったかいのを通りこして、暑くて倒れそうになるはずきゅる!」
「でも、そうはならなかったよね?」
「……そういえば、確かにそうきゅる!」
しずくに指摘されてはっとしたポピーの隣で、モモが不思議そうにつぶやいた。
「もしかして、あの竜さんは神気をおさえていたきゅるか? でも、トルタタさんに比べてあんなに大きな体をしていたのに、少しもぽかぽかにならなかったのは、おかしいきゅる……」
ほぼ同時に、「あ!」という顔になった二匹が、瞳を輝かせた。
「だから、しずくちゃんは、あの竜さんが火炎竜じゃないと思ったきゅるか?」
「もし本当に火炎竜なら、ちっともぽかぽかにならないのはおかしいきゅる!」
綺麗に磨いたコップをごーちゃんに手渡したしずくが、小さなドラゴンたちに笑いかける。
「そういうこと。だから、あの竜が火炎竜じゃないのは確かなことだと思うよ」
「しずくちゃんは、あの竜さんの正体に心当たりがあるきゅるか?」
「だいたいの当たりはつけているけど、まだ確定じゃないから今は内緒。でも、クアウラさんたちの報告を聞けば、はっきりするかも」
「すっごく、気になるきゅる! もしわかったら、絶対ぽぴーにも教えてほしいきゅる! 約束きゅる!」
「はいはい。ちゃんと約束するから、お店の中で飛び跳ねるのはやめようね」
ポピーは話を聞いて納得したようだが、モモはそうではないらしい。
もじもじしながらカウンターを見上げて、なおも質問を投げかけてきた。




