51話 神竜に対する疑念
シグベルム共和国の守護神竜、火炎竜ヴィリオーサが〈喫茶シルエ〉に突然やって来た日の翌朝、草原には雨が降っていた。
外がひんやりとして肌寒い中、しずくが〈営業中〉と書いたボードを立てかけに行くと、店の窓の下には雑草がもっさりと生い茂っており、プランターに植えた花が早くも満開を迎えていた。
「あの神官さんたち、今日はこないきゅるか?」
「またお客様が、小鳥さんだけになったきゅるね」
窓の外を見ていたポピーとモモが、窓際の奥の二人席を見ると、降りしきる雨をものともせずに開店前から待ち構えていた白い小鳥こと〈白い死神〉は、サウー砂糖入りミルクティの香りに包まれながら、今日もご満悦のようだった。
「あるじ様、今日は雨だから、あの火炎竜さんは濡れるのが嫌でやってこないきゅるか?」
「どうでしょうかねえ。確かに一般的な火竜は雨を嫌いますが、神竜ともなれば、きっとこれしきの雨など、気にも留めないでしょうからね」
「じゃあ、今日もここに来るきゅるか? 昨日みたいにお店が揺れるのは、困るきゅるね……」
「そうですね。ぼくも来店されるたびに、食器を壊されそうになるのは許せません」
ポピーと会話するうちに昨日のことを思い出したのか、だんだんとマスターが不機嫌になるのを見て、しずくが思わず苦笑する。
「マスター、気持ちはよくわかるけど、だからって、いきなりお客様を追い返すのは、絶対にだめだからね?」
「それはもちろん、ぼくもわかっていますが……」
暇を持て余していたシュクレドラゴンたちが、しずくたちの会話に興味をひかれ、わらわらと集まってきた。
「しずくちゃんは、あのでっかい竜さんが怖くないきゅるか? 昨日の神官さんたちは、『赤子を喰らう悪竜だ』って叫びながら、とっても怖がっていたきゅるよ?」
「あはは……。クアウラさんたちはそう思い込んでいるみたいだけど、あの竜はそんなことをするような竜じゃないよ。ポピーたちだってわかっているでしょ?」
「確かにそうきゅる。あの竜さんは、ぽぴーたちをどうこうする気はなかったきゅる」
「ももは、あの竜さんからは悪意を感じなかったきゅる」
「でも、ねりねは、うっかり炎を吹かれないか、ちょっと心配だったきゅる。火炎竜の炎はどんなものも溶かしちゃうきゅる」
不安そうな顔で告げるネリネに、カウンターに頬杖をついていたしずくが話を向ける。
「そのことなんだけど……あの竜が火炎竜だというのは、きっと間違いだと思うんだよね」
「きゅるる? しずくちゃんは、どうしてそう思うきゅる?」
ネリネが、こてんと首を傾げる。
「だって、昨日あの竜がここに来た時、店の中が少しも暑くならなかったでしょ?」
「……そういえば、そうきゅるね!」
三匹のシュクレドラゴンの中で、一番思慮深いネリネは、すぐにしずくが言いたいことに気付いたようだ。




