50話 真のボス
まだ少し顔色の悪い彼らに、『条件付きで良ければ頼みを引き受けます』と、しずくが切り出すと、クアウラたちは途端に顔を輝かせてブンブンと尾を振った。
「あ、ありがとうございます! あの恐ろしい竜を見て、もしマスター様やしずく様に断られたら、もはや打つ手がないと思っておりました!」
「あの、それで、条件というのはどのようなことでしょうか?」
「まず、神竜に生贄を諦めさせる方法は、私たちに一任してください。暴力に訴えるようなやり方ではなく、穏便な方法で平和的に解決しますから」
「わかりました。もちろんそれで構いません。われわれとしても、ヴィリオーサ様と事を構えずに済むのは喜ばしいことです!」
「条件はこれだけですか? もし僕らにもお手伝い出来ることがあれば、どうか何でもお申し付けください!」
にこにこ顔のワトルにそう言われたしずくは、少しだけ考え込むと、「ちょっと待っていてください!」と言い置いて、慌てて従業員口に駆けていった。
「あの、では済みませんが、さっきのお言葉に甘えて、この紙に書かれたことを大急ぎで調べてもらってもいいですか?」
しずくは息を切らせながら戻ってくると、手に握りしめていた小さなメモを差し出した。
ちなみに、こちらの世界で使われている言語の理解や読み書きについては、しずくの存在があちらの世界から切り離された時点で自動的に身につくよう、マスターが取り計らってくれている。
「こちらの店で働いてもらうのに、言語は必須ですからね!」
マスターの気の利いた計らいには感謝しかない。おかげで、他種族であるクアウラやワトルたちとやり取りする際も、こうして全く困らずに済んでいる。
綺麗な筆跡に感心しつつメモに目を通したクアウラは、内容を全て確認すると少し訝しそうな顔をした。
「調べるのは、本当にこれらのことで良いのですか? 一番目に書かれているもの以外は、ヴィリオーサ様とは関係がないことのように思えるのですが……」
「詳しいことはまた今度ご説明します。でも、どれもお二人の依頼に関わる重要な事なので、大至急調べてもらえますか?」
「わかりました。いずれの件も、国に戻れば記録が残っているはずですので、われわれ神官が総出で調査すれば、明日中には結果をご報告できると思います」
「よかった……。それならば、神事の日を迎える前に、お二人の依頼を果たせそうです!」
クアウラたちの説明によれば、生贄の神事が行われるのは五日後で、既に一週間を切っていた。そのため、急いで事を運ばねばならないのだ。
「われわれの頼みをお引き受けくださった事を、本当に感謝いたします」
「どうかよろしくお願いいたします」
二人が、何度も頭を下げながらシグベルムに帰って行くのを見送っていると、マスターが不思議そうな顔で問いかけてきた。
「しずくさん。さっきのメモには何が書かれていたのですか?」
「ああ、あれに書いたのは、ちょっとした質問事項だよ。実は、竜の話を聞いて気になっていることが幾つかあって、どうしてもその答えが知りたかったの」
「なるほど。しずくさんも、ヴィリオーサに関する話には、違和感を覚えていたんですね」
「多分、あのメモの質問の答えがわかれば、シグベルムと竜が抱えている問題を、まとめて解決できると思うよ」
「おお……!」
だが、感心して声を上げたマスターに、しずくが厳しい顔で釘を刺す。
「おお、とか言っている場合じゃないでしょ! 一刻も早く今回の件を片付けないと、いつまでたってもお客さんが来なくて、店が大赤字になっちゃうんだからね? 売り上げ向上と、メルダ硬貨をゲットするためにも、ここはみんなで協力して、さっさとこの問題を解決しないと!」
「あ、はい。わかりました……」
しずくに怒られてしゅんとするマスターを、窓際の席からじっと眺めていた〈白い死神〉は、この店の真のボスはしずくだったのか! とつぶらな目を丸くしていた。
金銭感覚がザルなマスターは、とことん経営者には向いていません(笑)
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