49話 聞いていた話と違う
火炎竜ヴィリオーサが飛び去った時はまだ明るかった空が、だんだんと赤く染まり始めている。
あと一時間もすれば日が落ちるというのに、シグベルムの神官であるクアウラとワトルは、心配そうなシュクレドラゴンやお手伝いゴーレムたちに囲まれながら、いまだにテーブルの下でブルブルと震えていた。
その怯えぶりがあまりにも可哀そうだったので、少しでも心が落ち着くようにと、しずくはホットミルクを作ることにした。
「二人とも大丈夫かな?」
「初めて神竜を間近で見たことに加えて、ヴィリオーサが飛び去っていく時に溢れ出ていた神気に当てられたのかもしれません。しずくさんは平気でしたか?」
「うん。全然何ともないよ。もしかして、私って神気に鈍感なのかな? 神様たちが来店した時や小鳥さんが神気を抑えるのを忘れていた時も、特に何も感じなかったし」
その理由はわからないが、神気を感じずとも生活するのに支障はないため、全く気にしていなかったしずくである。
「ところで、クアウラさんたちの依頼の件なんだけど──」
「おや、奇遇ですね。ぼくもちょうど、そのことについて相談したいと思っていたんですよ」
しずくは、火を止めて温まったミルクにほんの少しだけ砂糖を加えてかき混ぜると、白いマグカップに注ぎ入れてトレイに乗せた。それを、待ち構えていたごーちゃんがクアウラたちの元へと運んで行くのを見届けると、あらためて話を続けた。
「さっきも言ったけれど、私にはどうしても、あの竜が人を困らせるような存在には思えなくて。だから、話し合いにも応じてくれそうな気がするんだけど、マスターはどう思う?」
「そうですねえ。もし、あの火炎竜が、以前ぼくの神様が話していたヴィリオーサと同一神であるなら、話し合いには確実に応じてくれると思います」
「それで、実際にマスターが見てどうだった? 聞いていたのと同じ神様だったの?」
「体の色や姿形は聞いていた話と一致していたので、名前が同じだけの別の神ではなく、おそらく同一神で間違いないと思うのですが……」
やけに歯切れの悪い言い方をするマスターに、しずくが小首を傾げる。
「ん? 何だか自信がなさそうだね」
「容姿以外の部分については、どうも違っているようなのですよ。例えば、ぼくが神様から聞いた話では、ヴィリオーサという神はとても内気な性格で、国の守護を引き受けるような積極性はないはずなんです」
「うーん。長く生きているうちに、性格が変わった、とか?」
「まあ、いろいろと疑問は残りますが、とりあえず今はそういうことにしておきましょうか……」
少なくとも、ヴィリオーサという火炎竜が、クアウラたちが話していたような凶暴な存在ではないと分かったことで、生贄の件については話し合いで穏便に解決できそうだった。
それなら依頼を受けても問題はない、と判断したしずくたちは、ようやく落ち着きを取り戻し、ホットミルクを飲んでいるクアウラとワトルに話しかけた。




