46話 金色の眼
神官の二人が淹れ直したコーヒーを飲みながら談笑している様子を、カウンター越しに確認したしずくは、隣にいるマスターに小声で話しかけた。
「ねえ、マスター。トルタタさんに、この店まで来てもらうことって可能かな?」
「急にどうしました? 彼に何か用事でも?」
「確か、トルタタさんは〈炎熱の神〉だったよね? 火に関連する権能を持っているなら、火炎竜のことについて何か知っているんじゃないかと思って」
「なるほど。そういうことでしたか」
説明を聞いてうなずいたマスターは、だが残念そうに首を振った。
「確かにトルタタならば、詳しいことを知っていると思います。ですが、ここに来てもらうのは難しいかもしれません。何しろ彼の住居があるのは別大陸の火山の中ですし、基本的に彼は自分の家が大好きなので──」
何と、トルタタは引きこもり体質のトカゲだった!
「もし、この辺りに火山があれば、あるいは温泉旅行気分で来てくれたかもしれませんが……」
トルタタにとって、煮えたぎったマグマにつかることは、温泉につかる感覚と一緒であるらしい。
「彼の家は強力な結界で守られているので、ぼくの転移魔法でも近づけませんしね」
「絶対に家から出ないぞ、っていうトルタタさんの強い意思が伝わってくるね……」
ちなみに〈喫茶シルエ〉が森の中にあった時は、自宅のあるマグマだまりから、地下深くにある岩盤部分を高熱で液状化しながら泳いで来ていたらしい。
「そっか。神様だからといって、マスターや小鳥さんみたいに、転移魔法が使えるわけじゃないんだね」
しずくは、窓際の席でティーカップに頭を突っ込んだままでいる〈白い死神〉を、ちらりと見た。
「いや、彼に転移魔法は使えませんよ?」
「え? でも、いつも開店するのと同時に来ているよね?」
「あのバカ鳥の場合は、単にサウー砂糖が食べたいという執念と根性だけで、体力に任せて長距離移動しているだけです。もちろん、普通の神々にそんな真似はできないので、絶対に参考にしないでくださいね」
マスターはそう言うと、サウー砂糖の香りに夢中の小鳥に、冷ややかな目を向けた。
すると、不意に〈白い死神〉がティーカップから頭を上げ、窓の外を見た。
「ん? 急にどうしたのかな?」
その瞬間、ズシンと重い地響きがして、店が大きく揺れた。
「ひゃっ! 何これ、地震?!」
「揺れてるきゅる?!」
「みんな、何かに捕まるきゅる!」
「ごーちゃんたちは、危ないから伏せるきゅる!」
ズシン、ズシン、という轟音と共に、何度も何度も店が揺れる。
いち早くマスターが異変に反応し、棚が倒れたり食器が壊れないよう、魔法でおさえている一方で、しずくはカウンターの中でしゃがみ込んで、凄まじい揺れをやり過ごしていた。
(一体何が起こっているの?!)
しばらくすると、ようやくひどい揺れは収まったが、店の外から、「カフー、カフー」という不気味な音が聞こえてくる。
(こ、こわい……。これって何の音だろう?)
外がどうなっているのかを確かめるべく、カウンターに縋りながらゆっくりと立ち上がったしずくは、異様な光景を目の当たりにして、思わず短い悲鳴を上げた。
「ひえっ!?」
彼女の視線の先にあったもの──それは、窓枠に収まりきらないほどに巨大な金色の眼だった。




