43話 生贄を求める神竜
「……話はだいたいわかった。だが、果たしてそれは本当のことなのかな? 神竜が生贄を求めるだなんて、ぼくは今まで一度も聞いたことがない。それに、もし神事が行われる年に赤子が一人も生まれなかったら、神竜はどうするのだろうね? 腹を空かせたままで我慢するとでも?」
マスターから矛盾点を指摘され、一瞬クアウラたちがたじろいだ。
「そ、それは、われわれにはわかりませんが──実際にかの竜は、普段は北のポリュグ山で眠りについていて、百五十年に一度だけお目覚めになられるのです。おそらく、生贄を求めるのは、目覚めたばかりで空っぽの胃を満たすためではないかと」
「それは、ますますおかしな話だね。神竜が腹を満たしたいのなら、わざわざ生贄など求めずとも、自分の力でいくらでも食料を調達できるはずだよ」
「そうきゅる。ポリュグ山には、魔力がたっぷりの食べ物がいっぱいあるはずきゅる!」
「それに、シグベルムにも、美味しいお料理がいくらでもあるきゅるよ? もし、おなかいっぱい食べたいのなら、家畜さんを料理して持ってきてもらえばいいきゅる」
「いっそ、自分のおうちで料理を作ってもらえばいいきゅる。そうしたら、おかわりだって自由きゅるよ!」
「──待って。その場合、〈喫茶シルエ〉も参入させてもらうことは可能なのかな? もし神竜がうちの料理を気に入って、店に足を運んでくれるようになれば、念願のメルダ硬貨が獲得できるかも……」
怯えていたはずのしずくが、目を輝かせながら顔を上げた。どうやら、伝奇ホラー的な話に対する恐怖よりも、メルダ硬貨を集めて買い物したいという欲求が上回ったらしい。
「あ。しずくちゃんが復活したきゅる!」
「神竜さんは、メルダ硬貨を持っているきゅるか?」
「違うのかな? 私がいた世界では、竜といえば、お金や財宝をどっさりため込むのが好きな生き物として有名なんだけど」
「それなら、神竜さんにいっぱいお料理を食べさせて、お金をいっぱいもらうきゅる!」
自分たちが恐れている神竜から金を巻き上げる話で盛り上がっているしずくたちを前にして、クアウラとワトルが、口を半開きにしてぽかんとしている。
母国の窮状を救うために、わざわざ神に助力を求めて来た彼らと、皮算用に夢中なしずくたちの間で激しい温度差が生じているようだ。
少々クアウラたちが気の毒になってきたマスターが、呆けたままでいる彼らに声をかけた。
「とりあえず生贄についての考察は、いったん保留にしておくとして、わざわざぼくに助けを求めて来たということは、その守護神竜──火炎竜ヴィリオーサは、かなり強い神なのかい?」
「え、ええ。神殿で保管している書物には、そのように記されています。だから決して怒らせてはならないと……。普段は、ポリュグ山の奥深くにある巣の中で、巨大な体躯を横たえて深い眠りについておられますが、一度でも目覚めれば、その恐ろしい姿と咆哮は、全ての者を恐怖のどん底に叩き落とすのだとか」
「それにかの竜は、シグベルムだけでなく、他の周辺国をも余裕で守れる程の強い力をお持ちです。もともとポリュグ山脈は、飛竜の住処として有名ですが、ヴィリオーサ様のおかげで、飛竜がシグベルムや周辺諸国に襲来したことは、今までに一度もありません」
「ふむ。飛竜は自分よりも強い竜種には、決して逆らわないからね」
クアウラたちの話が本当ならば、シグベルムを守護するヴィリオーサという火炎竜は、相当に手ごわい相手のようだ。




