42話 無茶ぶりにもほどがある
予想の斜め上をいく頼み事に動揺したしずくは、すぐにカウンターに鎮座するマスターに助けを求めた。
「マスター、どうしよう! 竜退治しろだなんて、とんでもない無茶ぶりをされたんだけど!?」
この場合、どこから突っ込むべきなのだろう。そもそも、竜退治とは、お悩み相談に分類していいものなのだろうか。
「お、落ち着いてください、しずくさん」
マスターがしずくを宥めていたところへ、更にワトルが追い打ちをかける。
「あ! さっき、先輩が竜を倒していただきたいと申し上げましたが、決して討伐してほしいという意味ではありません! 竜を少しばかり痛めつけて、これ以上横暴なことをしないよう、諫めてほしいのです!」
「それって、少し言い方を変えただけで、結局竜をボコれと言っていることに変わりないですよね!?」
即座に突っ込みを入れるしずくに、恐縮した様子のクアウラが謝罪する。
「大変申し訳ありません! 私どもの説明が足りませんでした。先程申し上げた竜というのは、そこいらにいる野良飛竜のことではありません! 懲らしめて頂きたいのは、わがシグベルムの守護神竜──火炎竜ヴィリオーサ様なのです!」
「難易度を更に上げてきた!」
動揺するしずくにつられて、シュクレドラゴンやお手伝いゴーレムたちまでもがオロオロし始めると、唯一冷静だったマスターがクアウラたちに鋭い目を向けた。
「国を守り、繁栄の一助となる守護神竜を痛めつけろ、とはずいぶんと乱暴な話だね。そんな頼み事を神に引き受けてもらえるなどと、君らは本気で思っているのかな?」
その時、空気が冷たくなったように感じたのは、気のせいではない。
マスターの白い体が、ひんやりとした冷気を纏い始めたのを見て、クアウラたちが一気に青ざめた。
「お怒りはごもっともです! もちろん我らとて、守護神竜であるヴィリオーサ様には感謝しております! ですが、かの神竜はシグベルムを守護する見返りとして、百五十年に一度、生贄を求めてくるのです!」
彼らシグベルム人との間で、国を守る契約を交わした守護神竜ヴィリオーサは、百五十年に一度神事が行われるたびに、その年に生まれた全ての赤子を生贄として喰らってきたのだという。
「僕らは、たとえどんな手を使ってでも、赤子を生贄にするようなおぞましい神事を止めたいのです!」
「ひえっ……話が一気に伝奇ホラーになった……!」
カウンターの中にいたしずくが、両手で耳を塞いでうずくまる。実は、彼女はこの手の話が大の苦手だった。
「しずくちゃん、ぽぴーのしっぽを触って落ち着くきゅる」
「大丈夫きゅる。ももやごーちゃんたちが、そばにいるきゅるよ」
「ねりねたちがいるから、なにも怖くないきゅるよ」
シュクレドラゴンやゴーレムたちが、怯える彼女を必死に落ち着かせようとしているのを見て、マスターの顔がますます険しくなる。
彼は、大切なしずくを怖がらせたクアウラとワトルに対し、本気で腹を立てていた。




