40話 犬人族の再訪
「こんにちは、マスター様、しずく様」
「いらっしゃいませ! クアウラさん、ワトルさん。また来てくださったんですね!」
翌日の午後。昨日知り合ったばかりの犬人族の青年二人が、再び〈喫茶シルエ〉を訪ねてきた。
シェパードの獣人であるクアウラは、シグベルム共和国を守護する〈ヴィリオーサ〉という名の神竜を奉じる神殿に仕えており、二年前に先代の神官長が亡くなった際、新しく神官長の座に就いたそうだ。
コーギーの獣人のワトルは、クアウラの後輩にあたる高位神官で、二人は神官見習いの頃から親しい間柄であるらしい。
ちなみに年齢は、クアウラが七十歳で、ワトルが六十七歳だそうだ。
もちろん、しずくがびっくりしたのは言うまでもない。獣人の年齢を見た目から判断するのは、彼女にとってハードルが高すぎるようだ。
「もし宜しければ、こちらをお召し上がりください。皆さまのお口に合えば良いのですが──」
「わざわざお気遣いくださりありがとうございます。では遠慮なくいただきますね!」
クアウラからしずくに差し出された菓子折りの中身は、美味しそうな焼き菓子で、彼女のそばに来たポピーたちが歓声を上げた。
「甘くて香ばしいにおいがするきゅる!」
「おいしそうなお菓子の詰め合わせきゅる!」
「ごはんのおいしいシグベルムのお菓子きゅる!」
「ふふ。良かったねえ。おやつの時にみんなで食べようね」
大はしゃぎの眷属たちを横目で見たマスターが、苦笑しながら二人に礼を言う。
「ありがとう。わざわざ気を遣わせてしまったようだね」
「い、いえ、そんなことは!」
神から直々に礼を言われて恐縮しきりの二人に、トレイに水を載せてやって来たポピーが声をかけた。
「お好きな席にどうぞきゅる!」
「あ、ありがとうございます」
なにげなく店内を見回した二人は、窓際奥の二人用のテーブルにいる白い小鳥が、ティーカップに頭を突っ込んでいるのを目にした瞬間、石のように固まっていたが、しばらくすると何事もなかったかのように視線を外し、カウンター近くのテーブル席の椅子を引いた。
彼らが体調を崩さずにいる様子を見て、しずくとマスターがほっとして顔を見合わせる。
開店早々に押しかけてきた〈白い死神〉は、しずくたちからの注意を守って、今度はきっちりと神気を抑えているようだ。
「お待たせしましたきゅる。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいきゅる」
「おお、これも美味そうだ!」
「先輩、匂いを嗅いだだけで、涎が出そうですね」
今日二人が頼んだのは、オムライスとマカロニグラタン。どちらも初めて食べる料理だと言っていた。
パスタはあるようなのに、マカロニやお米はあまり一般的ではないのかな? と首を傾げるしずくの前で、犬人族の神官たちはすがすがしい食べっぷりを見せていた。
そして、デザートのショートケーキとパンケーキをぺろりと平らげ、ネリネが運んだ食後のコーヒーを飲み干した二人は、満足そうに息をつくと、急に表情を改めた。
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