39話 〈白い死神〉の武勇伝
「そういえば小鳥さんって、どこかの迷宮で逆ギレして魔物を狩りまくったんだっけ」
「ええ、そうですよ。だから、あの小さくてかわいらしい姿にだまされないでくださいね。あれでも、かつて国を滅ぼしたことだってあるんですから」
「え?!」
しずくがぎょっとして、マスターを見た。
「ずいぶんと昔の事ですが、奴隷の確保や略奪目的でテスレンカ法国に侵攻してきた大国を、彼は容赦なく氷漬けにして滅ぼしているんです」
「うわあ……」
しかも、その大国が彼に凍らされて滅びるまで、一時間もかからなかったらしい。
「きっと、小鳥さんがその国を滅ぼした時は、周りからさぞかし怖がられたんだろうね……」
「いえ、当時の彼は、テスレンカだけでなく周辺国からも救国の英雄として祭り上げられて、大量のお供え物に囲まれながら、毎日をご機嫌で過ごしていたと思います」
「ええー……」
〈白い死神〉が滅ぼした大国は、侵略先の国々を荒らし回っていただけでなく、自国に連れ帰った捕虜を奴隷として虐げるなど、非道の限りを尽くしていたことで有名だったので、〈白い死神〉を恐れたり非難する声は、少しも上がらなかったらしい。
「しかも、彼がその大国を滅ぼした際、奴隷にされた捕虜だけは氷漬けにしない、という離れ業をやってのけたので、更に人気が爆上がりしまして」
「何それ、有能!」
「小鳥さん、すごいきゅる! ぽぴーは、ちょっと尊敬したきゅる!」
「ねりねは、小鳥さんを見直したきゅる! ただの乱暴者じゃなかったきゅる!」
「小鳥さんは、ただお砂糖が好きなだけの神様じゃなかったきゅるね!」
〈白い死神〉を褒めるシュクレドラゴンたちを、マスターがじろりとにらみつける。
「──確かに、彼の実力には目を瞠るものがあります。でも、サウー砂糖が絡むと、途端にバカ鳥になることを忘れてはいけません。だいたい、今までのやらかしの数があまりにも多すぎて、こんな功績ぐらいでは、ぼくの中での彼に対する評価は上がりませんよ!」
ぷんすかしているマスターは、傍目から見るとかわいらしい。しずくは頬が緩むのをこらえるのに必死だった。
「小鳥さんって、確かに狂気を感じる程のサウー砂糖ジャンキーだもんね。だけど、それなら逆に、もし堕ち神になったとしても、サウー砂糖を盾にすれば簡単に倒せちゃうんじゃない?」
苦笑交じりにそう言うと、ネリネ、モモ、ポピーの三匹も同意する。
「確かに、あのお砂糖がない時の小鳥さんは、よわよわきゅる」
「大好きなお砂糖のためなら、なんでもしてくれそうきゅる」
「この間、お砂糖がないなら生きている意味がない、ってミルクティーを飲みながら、ずっとつぶやいていたきゅる。ちょっと怖かったきゅる。周りのお客さんも引いてたきゅる」
「うわー……」
──〈白い死神〉のサウー砂糖への愛が重すぎる。
「まあ、彼の場合、サウー砂糖さえちらつかせておけば、自分の役目を投げ出すような真似は絶対にしないでしょうから、きっと堕ち神になることもないでしょう」
「だけど、もしこの世界からサウー砂糖が無くなったら、絶望のあまり、全てを滅ぼしかねない気がするよ……」
しずくの不吉なつぶやきを聞いた全員が沈黙する。
「……ぼくの畑を管理しているシュクレドラゴンたちに頼んで、サウーの木から挿し木用の枝を何本か切って、テスレンカ法国に寄贈しておきますね」
「……うん。ぜひお願いします」
──どうか、この世界の人たちが、これ以上サウーの木を絶やしませんように。
この日、しずくだけでなく店に居る全員が、心の底からそう願ったのだった。




