35話 ヒト族は絶滅種族
「この、鮭とほうれん草のクリームパスタは、わが国で出しているものに比べて各段に美味い! クリームが濃厚で鮭も肉厚だ。それに、このほうれん草! えぐみや苦味が全くなく、甘みが強いせいで、ソースの塩加減と絶妙に合っている!」
「先輩、このフルーツサンドも絶品です! しっとりとした食パンに、この白くて甘いクリームと、みずみずしい果物を挟む、という発想はとても素晴らしいです! 僕、これならいくらでも食べられそうです」
「しかも、食べ物だけでなく、コーヒーまでとてつもなく美味い上に、値段も手ごろだ。いや、この美味しさと出来栄えを考えたら、むしろ安いと断言できる! これはぜひ、デザートも頼まねばなるまい!」
「うわあ! 先輩、このメニューの絵を見てください! 今までに見たことのないデザートばかりですよ。どれも美味しそうで迷ってしまいます!」
最初に店に入った時の緊張と警戒心はどこへやら。
二人の犬人族は、飲み物や料理に口をつけた途端に目の色を変えると、その後は見事な食レポを披露しながら、一心不乱に飲み食いし続けていた。
「美味しい物は、心配や不安を吹き飛ばすきゅる」
「あはは! 確かにそうかもしれないね」
「ふっ、言い得て妙ですね」
ドヤ顔のポピーを前にして、しずくやマスターが思わず吹き出した。
その後、飲み物をおかわりしてデザートまでペロリと平らげた犬人族の青年たちは、腹をさすりながら満足そうに息をついた。
「お客様、おなかはいっぱいになったきゅるか?」
「ああ、おかげさまで大満足だ!」
「僕たちの住んでいるシグベルムは、美食の国として有名ですが、こんなに美味い料理やコーヒーは、口にしたことがなかったです」
そこまで褒められたら、嬉しくないはずがない。しずくは先程から、つい顔がにやけてしまうのを止められないでいる。
そんな彼女に、居住まいを正したシェパードの青年が話しかけて来た。
「失礼ですが、これほどまでの料理の腕前を持つあなた様は、もしや伝説のヒト族なのでしょうか?」
「は? いま、なんて?」
たった今、何やらとてもおかしな言われたような気がする。
「もし、気を悪くさせてしまったのなら、謝ります。ですが、その美しい容姿や佇まい、それに魔力を全く感じないことから判断すると、そうではないかと愚考しまして──」
申し訳なさそうに大きな体を縮こまらせたシェパードの青年をよそに、しずくは半眼になった顔を、ぎ・ぎ・ぎとマスターに向けた。
すると、目が合った瞬間、サッと、ぬいぐるみのような白蛇が顔を逸らす。
──これは、またしてもほうれんそうを忘れてたな……!
心のメモに「あとで反省会」という文字を書き込んだしずくが、逆に質問を投げかけた。
「ヒト族というのは、私のような容姿をしているんですか?」
「え、ええ。ヒト族は、創造神のゼオロビム様がご自身の姿を模して創ったと伝えられている種族で、あなた様のように耳は短く丸みを帯びていて、つるりとした肌と整った容姿をしていると言われています」
「一番近い容姿をしているのはエルフ族だと言われていますが、彼らは耳が長くて尖っていますから、一目でヒト族でないとわかります」
エルフもいるんだ! と内心で興奮しつつ、しずくは更に質問を重ねる。
「さっき、私からは全く魔力を感じないと言っていましたよね? それって逆に言えば、ヒト族以外の種族はみんな魔力を持っているということなのでしょうか?」
「ええ。その認識で間違いありません。われわれのような獣人はもちろんのこと、虫や植物など、この世界のあらゆる生き物は、多かれ少なかれ、必ず魔力を持っています」
「そうなんですね……」
「ヒト族は、創造神ゼオロビム様がお創りになった最初の種族で、一切魔力を持たなかったと言われています。加えて、その後に創り出された他の種族に比べると、体のつくりがあまりにも脆弱だったため、侵略や迫害を受けて絶滅したと言われています」
「せ、ぜつめつ……」
自分と同じ種族の悲惨な最期を聞かされたしずくは、思わず絶句した。
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