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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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34話 犬獣人の客

 翌日も快晴で、外では爽やかな風が吹いていた。


「今日こそは、新しいお客さんが来るといいねえ」

「来るといいきゅるね~」

「新しいお客さんのために、お店の中をぴかぴかにみがいたきゅる」

「昨日はひますぎて、なんだかごーちゃんたちが、ものたりなさそうだったきゅる」


 しずくたちは、朝からそんな会話を交わしながら、新たな客が訪れるのを心待ちにしていたが、その願いもむなしく、午前中に来店したのは、またしても〈白い死神〉だけだった。

 しかし、その唯一の客である〈白い死神〉も、今日は彼が神として奉じられているテスレンカ法国で祭事があるという理由で、一時間もたたないうちに帰ってしまった。

 小鳥さんもちゃんと神様としての役割を果たしていたんだなあ、とほっとした反面、閑古鳥(かんこどり)が鳴いている店内を眺めてしずくがため息をついていると、遠慮がちにドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませ。〈喫茶シルエ〉へようこそ!」

「……喫茶店、というと、ここは飲み物を出す店なのですか?」


 こわごわとドアを開け、とても緊張した様子で入ってきたのは、二足歩行のシェパードとコーギーだった。


 犬人族だ! としずくが心の中で興奮していると、L字カウンターの角の薄いクッションの上で鎮座していたマスターが、すかさず彼らに返事をした。


「飲み物だけでなく、何種類かの料理や菓子も提供していますよ。今、係の者がメニューを用意するので、とりあえず好きな席におかけなさい」


 犬人族たちは、ぎょっとした顔でマスターをしばらくの間まじまじと見つめ、互いに顔を見合わせると、更に緊張した面持ちになって、入口に一番近い窓際の席についた。

 浅く椅子に座った彼らは、ちらちらとしずくたちを見ながら、何やら小声で言葉を交わし合っている。

 こうして見ていると、ずいぶんと警戒されているようだ。


(この店は、至って普通の喫茶店なんだから、そんなに身構えなくてもいいのになあ)


 しずくはしきりに残念がっているが、翼の生えた蛇は、明らかに普通の生き物ではない。

 それに加えて、シュクレドラゴンやごーちゃんたちは、マスターが新たに創り出した眷属であって、この世界の住人が、まだ一度も目にしたことのない未知の存在なのだから、犬人族の二人が警戒するのも仕方のないことなのだ。


「お客様、ご注文はお決まりきゅるか?」

「あ、ああ。私は、アイスコーヒーと、鮭とほうれん草のクリームパスタを頼む」

「ぼ、僕は、カフェオレのホットと、このフルーツサンドというのを、お願いできますか?」

「かしこまりましたきゅる! こちらはお水ですきゅる」

「え? 僕らは、頼んでいませんよ?!」


 モモが水の入ったコップを置くと、ガチガチに緊張したコーギーの青年が、慌てて立ち上がった。モモは一瞬きょとんとしたが、すぐに焦っている彼を落ち着かせるために説明した。


「こちらは、無料でお出ししているお水ですきゅる。お代は結構きゅる。おかわりしたくなったら、遠慮なく言ってくださいきゅる」

「この店では、水を無料で提供するのか……」


 モモの説明を聞いたシェパードの青年が驚愕(きょうがく)していると、向かいの席に再び腰を下ろしたコーギーの青年が、おそるおそるといった様子で、コップの水を一舐(ひとな)めした。


「美味しい! こんなに美味しい水は初めて飲みました!」

「本当か?! むっ、これは確かに美味い! こんなに美味い水を、惜しげもなく無料で提供しているというのか!? だとすれば、この店はやはり──」


 ──やはり何だと言うのだろう?

 

 水を飲んだだけで大騒ぎしている犬人族を見ながら、しずくはカウンターの中でしきりに首を傾げていた。


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