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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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33話 めちゃくちゃ必死で捜したらしい

 この日、午前十時の開店時間を過ぎても、一向に客が店を訪れる気配はなかった。

 暇を持て余したしずくは、わざわざ店の外に出てシグベルムの方角を何度も眺めたが、青々とした草原が広がっているだけで、一つたりとも人影は見えなかった。


(あ! そういえば、神様だけでなく、シグベルムの人もこの場所で〈喫茶シルエ〉が開店したことを知らないんだった! どうりで、お客さんが来ないはずだよ)


 ようやくそのことに気付いたしずくは、何気なく入口の脇に並べたプランターに目を向けて、植えたばかりの花の苗が順調に育っているのを、しばらくの間ぼんやりと眺めたのち、肩を落としながら店に戻った。

 昼の(まかな)いが何かを予想しながらはしゃいでいた三匹のシュクレドラゴンは、いつの間にか奥のソファ席でうたた寝しており、マスターはカウンター角の定位置で、『初心者にもできる喫茶店経営』という本を読みふけっている。

 そのそばでは、働き者のごーちゃんたちが、紅茶の茶葉の在庫確認に勤しんでいた。





 そろそろ昼になろうかという頃、手持ち無沙汰のしずくが、ごーちゃんたちと一緒にコップを磨いていると、チリンチリンとドアベルが鳴った。


「! いらっしゃいま──」


 楽しみにしていた最初の客にそう言い終える前に、開いたドアの隙間から店に飛び込んできたのは、よく見知った白い小鳥だった。


「うわ! びっくりしたあ!」

「あなた──まさか、こんな所まで追ってきたのですか!?」

『おさとう……』 


 サウー砂糖ジャンキーこと〈白い死神〉は、うるうると潤んだつぶらな瞳で、しずくをじっと見つめるなり、悲しそうにつぶやいた。


『このおみせ、ずいぶんさがした……』


 見ると、真っ白な体は薄汚れており、翼もぼさぼさになっている。そのつぶやきの通り、あちこちを飛び回り必死に店を探していたのだろう。


『……さうーのおさとう、また、たべられなくなるとおもったら、めのまえがまっくらになった……』


 カウンターの上に、ぽたぽたと涙が零れ落ち、たちまち小さな水たまりができる。


「ああああ! わかったから、そんなに泣かないで! 今すぐいつものミルクティーを用意してあげるから!」

「しずくさん、彼を甘やかす必要はありません──全く、教えてもいないのに一体どうやってこの場所を嗅ぎつけてきたのか……」


 悲しみに暮れる小鳥のいじらしい姿を見ても、マスターの塩対応は変わらない。


 騒ぎで目を覚ました三匹のシュクレドラゴンが、「小鳥さんもお客さんきゅる!」とマスターをたしなめながら席に案内しているうちに、しずくは手早くサウー砂糖入りのミルクティーをこしらえると、彼の指定席である窓際の二人席に運んでいった。


「マスターには内緒で、いつもより多めにお砂糖を入れておいたよ。だから、もう泣かないでね」

『……!』


 ぱっと顔を上げた〈白い死神〉は、しずくとカップとを何度も見比べた後、目をキラキラと輝かせた。


『ありがと、しずく!』


 彼は、見た目を裏切らないかわいらしい声でそう告げると、カップから立ち上る甘い湯気に顔を突っ込んで、うっとりと目を閉じた。


『ああ、さうーのおさとう……しあわせのにおい……』


 満ち足りた様子の小鳥を目にしたしずくは、つい声を立てて笑ってしまった。マスターは毛嫌いしているが、彼女はこのサウー砂糖ジャンキーの小鳥を好ましく思っている。

 実は最近、彼はサウー砂糖だけでなく、紅茶にも興味を持ってくれたようで、注文の際にお勧めの紅茶についても質問してくれるようになったのだ。

 しずくとしては、自分の淹れた紅茶を飲んでその美味しさに気付いてもらえたことが、何よりも嬉しかった。


(ふふふ。毎日小鳥さんの反応を見ながら、少しずつ茶葉や分量を変えて、紅茶を淹れてきた甲斐(かい)があったよ。でも、こんなにしょっちゅう店に来て、国を守る役目の方は大丈夫なのかな? テスレンカ法国の神官さんたちが困っていないといいけど)


 そんな彼女の心配をよそに、ふくふくとした白い小鳥は、ご機嫌な様子で念願のミルクティーをちびちびと味わっている。





 そして結局、出張開店初日のこの日の客は〈白い死神〉だけで、しずくが期待していた犬の獣人は一人も姿を見せなかった。

なお、行く手をさえぎる魔物は全て殲滅してきた模様……

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