31話 草原の中の喫茶店
「え? 嘘でしょ……?」
次の日の朝。
しずくが、店舗二階の自室で目覚めたとき、窓の外に広がっていたのは森ではなく、澄んだ青空と見渡す限りの草原だった。
慌てた彼女が階段を駆け降りていくと、カウンターの定位置に鎮座していたマスターが、店の外にあるプランターへの水やりを終えたごーちゃんたちを、労っていた。
「しずくさん、おはようございます」
「おはよう、マスター! 窓の外を見てびっくりしたよ。お店ごと別の場所に引っ越すって、言葉通りの意味だったんだね!?」
「ふふふ。しずくさんを驚かせたくて、皆が寝ている間に、こっそり頑張っちゃいました!」
パペットのような外見の白蛇が、得意げに胸を張っている姿は、とてもかわいらしい。
「ねえ、もしかして、マスターって、実は凄い神様だったりする?」
「──それは内緒です」
茶目っ気たっぷりにウィンクするマスターを見てしずくが笑っていると、ぽてぽてと足音を立てながら、ポピーたちが二階から下りてきた。
「あっ! あるじ様、しずくちゃん! お外に草がいっぱい生えてるきゅるよ!」
「たいへんきゅる! お外が森じゃなくなってるきゅる!」
「ももたち、寝ている間にお引っ越ししてたきゅる!」
三匹のシュクレドラゴンたちは、しずく以上に興奮しているようだ。
「はいはい。きみたちは少し落ち着きなさい。あとで詳しい説明をしますから、今は朝食の準備を手伝ってください」
「わかったきゅる!」
「お手伝いするきゅる!」
「今日の朝ごはんも楽しみきゅる! しずくちゃん、メニューは何きゅるか?」
食いしん坊のポピーが目をキラキラさせている。
「今日はね、バターの風味を利かせた、ふわふわのトマトオムレツだよ」
「聞くだけで美味しそうきゅる!」
「今日は、新しい場所でお店を開く最初の日だから、皆でしっかりごはんを食べて、一緒に頑張ろうね!」
「わかったきゅる。頑張るきゅる!」
マスターの説明によると、ここは昨日までいた大陸の南西に位置する別の大陸で、店を出て南に向かってしばらく行くと、シグベルム共和国という小国があるらしい。
「シグベルムは、獣人族の一派である犬人族が建国した国で、長きにわたって守護神竜に守られていると言われています。一年を通していろいろな作物がとれるので、料理の種類がとても多く、どれも美味しいことで有名です。最近では特に、スイカやメロンなどの果物を使ったデザートがお勧めらしいですよ」
「えっ? この世界にも、スイカやメロンがあるの?」
「ええ。他に、人参やじゃがいも、玉ねぎなどの野菜もありますよ」
驚いたことに、こちらの世界には、もとの世界の神から分けてもらった作物が数多く存在するらしい。




