30話 出張開店してみよう!
新たにお手伝いゴーレムのごーちゃんたちを仲間に加えた〈喫茶シルエ〉は、連日の忙しさにも無理なく対応できていた。
しかも、彼らの活躍のおかげで調理や接客にも余裕ができ、客を飽きさせないよう、メニュー内容を増やすことも可能になった。
もちろんそれが理由で接客に破綻が起きぬよう、マスターはお手伝いゴーレムの数を、五体から八体に増やしている。
働き者で疲れ知らずのごーちゃんたちは、〈喫茶シルエ〉にとって、今では決して欠かせない大切な戦力となっていた。
〈喫茶シルエ〉が新規開店してから、ちょうど一か月がたった日のこと。
「ねえ、マスター。私、最近気になっていることがあるんだけど」
皆でにぎやかに夕食をとっていたとき、ふと押し黙っていたしずくが、突然そう切り出した。
「しずくちゃん? 急にどうしたきゅる?」
「一体何が気になるんですか?」
「何というか、こうして毎日お店が繁盛するのはとっても喜ばしいことなんだけど、マスターがこの店を開いた本来の目的からは、どんどん遠ざかっている気がするんだよね」
複雑そうな顔のしずくを見て、マスターがぽかんとした。
「……え?」
「だって、マスターがこの喫茶店を開いたのって、昔お仕えしていた神様の、『おいしいものを振る舞いつつ、お客さんの悩み事を解決してあげなさい』っていう、遺言を果たすためだよね?」
「ええ。その通りです」
「でも、今みたいな忙しさだと、そんなことをする余裕なんてないよね? そもそも、悩んだり困ったりしているお客さん自体を見かけないし」
「はっ! それは、確かに……!」
マスターが愕然としていると、焼きたてのパンにかぶりついていたポピーが、不思議そうな顔をした。
「ん~? でも困っている神様はいるきゅるよ?」
「え? そうなの? 私は全然気が付かなかったけど」
「〈白い死神〉さんは、サウーの木が枯れて困っているきゅる」
「アレは、悩みには入りません!」
毎日欠かさずに店を訪れては、サウー砂糖入りのミルクティーを飲んで帰る白い小鳥に対し、マスターは相変わらずの塩対応である。
「まあ、小鳥さんは、お砂糖入りのミルクティーを飲んで満足しているみたいだから、除外してもいいんじゃないかな?」
「そっかー。じゃあ、ほかに悩んでいる神様は、特にいないきゅるねー」
「だとしたら、この場所で店を開く意味は、あまりありませんね」
「やっぱりそうだよねえ……」
同意したしずくが小さくため息をつくと、マスターが思案顔でつぶやいた。
「それなら、困っていそうな者がいる場所で店を開けばいいのでは?」
「ん? それってつまり、別の場所に〈喫茶シルエ〉の二号店を作るってこと?」
「いえ、そうではなく、この店ごと引っ越す、という意味です」
「コンテナハウスみたいに、店を引っ張って移動するってこと? でも、それだと木が邪魔になるんじゃない?」
「大丈夫です。ここが森であることは、引っ越しの障害にはなりません──まあ、このぼくに任せてください!」
マスターは自信満々にそう言うと、首を傾げるしずくやポピーたちに向かって、かわいらしくウィンクして見せた。
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