29話 優秀な助っ人
「マスター、コーヒー豆の量はこれぐらいでいいかな?」
「ええ。それで十分です」
「じゃあ、焙煎をはじめるね」
しずくが、ピンク色から茶褐色になる絶妙な頃合いで、お湯からすくい上げた砂粒大のコーヒー豆を、マスターが即座に冷まして魔法で乾燥させる。
そして、間を置かずに、心を無にしたしずくが有名な歌謡曲を見事に歌い上げると、彼女の歌声に満足したコーヒー豆がピカピカと光り出す。どうやら、今回の焙煎も素晴らしい出来栄えのようだ。
「それでは、今からこの豆を使って、ぼくたちにホットコーヒーを淹れてください」
マスターが凛とした声をかけると、L字型カウンターの中に設置した踏み台に一列に並んだお手伝いゴーレムたちが、すぐさま動き出した。
彼らは、まず器具を湯煎すると、ドリッパーをコーヒーサーバーにセットして、ペーパーフィルターの湯通しを行った。
ここまでの動作は、どのお手伝いゴーレムも、見ていて全く危なげがない。彼らがいかにも手慣れているので、しずくが驚いて目を瞠っている。
五体のお手伝いゴーレムは、ほぼ同じタイミングでフィルターにコーヒー豆を入れると、事前にしずくから教えられていた通り、コーヒー豆を全体的に優しく湿らせるように、注ぎ口が細いケトルを傾けながらゆっくりとお湯を注いでいく。
つぶらな瞳で、コーヒーサーバーの中にコーヒーがポタポタと落ちていくのを、じっと見つめていたゴーレムたちは、しばらく待って抽出が終わったことを確認すると、事前に用意していたコーヒーカップに、器用な手つきでコーヒーを注いでいった。
「どうやら完成したみたいですね」
カウンターの上に並んだ五つのコーヒーカップからは、何とも言えない香ばしい匂いが立ち上っている。
「見たところ、どの子も私が教えた通りに淹れていたけれど、味の方はどうかな?」
五体のお手伝いゴーレムは、心なしかドキドキした様子で、しずくの挙動を見つめている。
彼女がふうふうと息を吹きかけながらコーヒーを口に含むと、仄かな酸味と芳醇な香りを感じるのと同時に、専門店で飲むコーヒーと遜色のない豊かな味わいが広がった。
ちろちろとコーヒーを口にしたマスターも、驚いて目を輝かせている。
「ほう、これはなかなか……」
「美味しい! 全員、文句なしの合格!」
満足そうな笑みを浮かべたしずくから、合格を言い渡されたお手伝いゴーレムたちは、その場で小躍りしたり、互いにハイタッチをすることで喜びを表現していた。
その後、客の役をするしずくたちを相手に、注文した料理を運ばせたり食器を下げさせたりして、給仕の仕事も任せてみたが、どれも危なげなくこなせることがわかった。
「どうでしょうか、しずくさん。背が低いせいで、テーブルやカウンターの上に手が届かないという欠点は、こうして動く踏み台に乗ることで解消できます。これなら十分に戦力になるのでは?」
動く踏み台というのは、背丈が低いごーちゃんたちのために、マスターが作った魔道具で、元の世界にあった丸形のロボット掃除機にそっくりな見た目をしている。
「小柄なゴーレムがロボット掃除機の上に乗っている、っていう見た目はとてもシュールだけど、確かに戦力としては申し分ないと思う」
「ごーちゃんたちが料理を運んでくれるなら、お客さんがいっぱい来ても、ぽぴーたちは注文を取ることに集中できるきゅる!」
「しずくちゃんも、料理で手一杯の時は、ごーちゃんたちにドリンク作りを任せることができるきゅる!」
「ももは、仲間が増えるのは、とっても嬉しいきゅる!」
「それでは、彼らを新しい店員として採用する、ということでいいですか?」
「ぽぴーたちは、みんな賛成きゅる!」
「もちろん、私も賛成!」
「どうやら結論は出たようですね。では、全員賛成ということで、お手伝いゴーレムのごーちゃんたちを、正式にこの店の店員として採用します!」
マスターが宣言すると、拍手するしずくたちに向かって、ごーちゃんたちがぺこりと頭を下げた。相変わらず口は真一文字のままだが、顔を上げた彼らの頬はうっすらと赤く染まっている。
「表情は変わらないけど、嬉しいってことなのかな?」
「そうきゅる! ごーちゃんたち、とっても喜んでいるきゅる!」
ごーちゃんたちは、言葉が話せず表情を変えられない代わりに、身ぶり手ぶりや顔色を変えることによって気持ちを表すことができるらしかった。
実はごーちゃんたち、動く踏み台で移動するのが気に入っていたりする(*^-^*)




