28話 労働環境を改善しよう
店名が〈喫茶シルエ〉に決定した日、開店初日から客が押し寄せて、散々な目に遭ったことを重く見たしずくたちは、直ちに今後の対策を練ることにした。
「というわけで、今日は休業日にします! もし、昨日みたいな状況が毎日続いたら、みんなそろって過労で倒れちゃうのが目に見えているからね」
店が繁盛するのは喜ばしいが、今のままでは店員の負担があまりにも大きすぎる。
「一番の問題は、お客さんの数に対して、私たち店員の数が圧倒的に足りないことだよね。調理補助とホールスタッフを増やさないと、きっとまた手が回らなくなっちゃうよ」
「でも、これ以上シュクレドラゴンを店に連れて来ると、彼らに任せている食材の栽培や管理が疎かになってしまいます」
「うーん、それは困るもんねえ」
「だからといって、バイトを募集しても、すぐには決まらないでしょうし……」
「そうだよねえ……」
しずくとマスターが、共に顔を顰めていると、ネリネが小首を傾げながら問いかけてきた。
「あるじ様、それなら、ごーちゃんたちに手伝ってもらうのはどうきゅるか?」
「──あ! そうか、その手がありましたね!」
「ごーちゃんたちは喋れないけど、料理を運んだり、簡単な調理をするくらいなら、きっと手伝えるきゅる」
「確かにそうですね! 早速その案を採用しましょう!」
羽をぱたぱたと動かしながら、マスターが上機嫌で魔法を使おうとするのを見て、しずくが慌てて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って! 話の内容が全くわからなかったんだけど!? マスターは一体何をしようとしているの? ごーちゃんって誰? お願いだから報・連・相を忘れないで!」
「おっと、そうでした! ──ええとですね、ぼくは今、魔法でお手伝いゴーレムを創り出そうとしています」
「お手伝いゴーレム?!」
「きっと、説明するよりも、実際に見てもらったほうが早いと思います。しずくさんの世界で言うところの、百聞は一見に如かず、というやつです」
楽しげにそう言いながら、マスターがくるんと尻尾の先を回すと、キラキラと光の粒が集まって、何かを形作っていく。
「こういうのって、ゲームで見たことがあるような……」
しずくがつぶやいてから数秒もたたずにテーブルの前に現れたのは、五体の小さなゴーレムだった。
全身がアイボリー色のゴーレムは、二頭身半で背丈は七十センチくらい。顔にあたる部分には、まん丸のつぶらな目がやや離れ気味に配置されており、鼻はなく、口は真一文字に結ばれている。そのどこか愛嬌のある顔つきのせいで、ごついというよりも、かわいらしい印象のほうが強い。
足は武骨な石の塊のままだが、手にはしっかりと五本の指があるので、調理や食器の持ち運びは問題なくこなせそうだ。
「これがお手伝いゴーレムなの? なんだかかわいいね」
「彼らはこんな見た目ですが、教えたことを覚えるだけの理解力はきちんと備わっていますし、結構器用なんですよ?」
「へえ~」
「……信じていないようですね。それなら、実際に仕事をさせてみましょう」
マスターはそう言うと、しずくにコーヒー豆の準備を依頼した。




