3話 説明不足
「あれっ? ぼくの事、天音さんから聞いていませんか?」
「な、なにも聞いていないですけど!?」
慌てて否定すると、白蛇の笑顔が固まった。しずくが何も知らされていなかったことがよほどショックだったらしく、全身を小刻みに震わせている。
「ええと、その、大丈夫ですか?」
「そ、そんな、天音さん、酷いです……! ぼくは、しずくさんが全ての事情を知った上で、バイトに来てくれたのだと思っていたのに──」
パペットのようにかわいらしい白蛇は、翡翠色のつぶらな瞳を潤ませ、弱々しくつぶやくと、戸惑うしずくに頭を下げた。
「ごめんなさい、しずくさん!」
「はい?」
「蛇という生き物は、そちらの世界では、一般的にあまりいい印象を持たれていないのですよね? 初対面でいきなり怖がらせるつもりはなかったのですが──」
いきなりの謝罪に面食らったしずくは、その言葉を聞いて、「ああ」と納得した。
「そういうことなら、特に気にしなくても大丈夫です。私、蛇は苦手じゃないので」
「……本当に?」
謎の生物は、酷く心配そうな顔をしている。
「本当です。それに、店長さんには牙や舌がないし、見た目が完全に子供向けのぬいぐるみなので、全然怖くないです」
むしろ愛嬌があってかわいいくらいだ。
「そうですか? でも、さっきは驚いていましたよね?」
「まあ、普通、蛇は飛ばないし、しゃべりませんから……」
「はっ! 確かに!」
しまった、という顔をした白蛇を微笑ましく見ているうちに、しずくはようやく落ち着きを取り戻した。
「ところで、ここは一体どういう場所なんでしょう? トンネルを抜けたらいきなり森の中にいて、帰り道が無くなっちゃったんですけど」
「ここは、しずくさんのいた世界とは異なる世界──いわゆる異世界です。実は今回しずくさんをお迎えするために、一時的にあのトンネルで二つの世界を繋いでいたんです」
「ええっ?!」
「ちなみに、一度こちら側に足を踏み入れると、もう二度とあちら側に戻れない仕様なのですが、天音さんからその点について、何か説明は──」
「ありません……」
「ああ、やっぱりそうでしたか……」
へにゃりと項垂れた白蛇が、再び泣きそうな顔になった。




