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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第一章  森の中の喫茶店

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2話 店長との出会い

「どういうこと? トンネルを出る直前に見えていたのは、確かに普通の道路だったはず」


 首を傾げながら、何気なく後ろを振り向いたしずくは、目を丸くして固まった。


「嘘、トンネルが無くなってる?!」


 慌てて周囲を見回すが、美しい森が広がっているだけで、トンネルはどこにも見当たらない。もしやこれは白昼夢なのかと、何度目をこすってみても、目の前の景色は全く変わらなかった。

 状況が飲み込めずに、しばらく呆然と立ち尽くしていたしずくは、やがて我に返ると、長いため息をついた。


「はあ。訳が分からないけど、ずっとこうしていても仕方がないか。とにかく、今はバイト先の喫茶店を探そう……」


 手元の地図に書き込まれた説明によると、トンネルを抜けてしばらく真っすぐに歩いて行くと、喫茶店が見えて来るらしい。


「とりあえず、この細い道をずっと行けばいいのかな?」


 幸いなことに、先程までの蒸し暑さが嘘だったかのように、森の中は湿気が少なく涼しかった。

 強い日差しに(さら)(さら)されずに済んだことにほっとしつつ、ガタがきている心臓が()を上げないよう、しずくはゆったりとしたペースで森の中を歩き続けた。


「……そろそろ、店が見えてくるといいんだけどな」


 このまま真っすぐ進んで行っても良いのか、少し不安になりかけた頃、不意にぽっかりと開けた場所に出た。


「ほんとにあった!」


 小径(こみち)を抜けた先に建っていたのは、外壁がレンガで出来ている落ち着いた佇まいの喫茶店だった。

 建物は二階建てで、青葉色に塗られた屋根が森の木々に上手く馴染んでいる。


「見た目は結構、私好みかも」


 店名はどこにもないが、入口に置かれたプランターのそばには、「準備中」と書かれたボードが立てかけられている。

 緊張しながら、おそるおそる木製のドアの取っ手に手をかけると、施錠されていないドアが容易く開き、金色のドアベルがチリンチリンと可愛らしい音を立てた。


「こんにちはー……」

「──いらっしゃいませ」


 戸惑いがちに店の中に足を踏み入れると、向かって左手の正面に備え付けられたカウンターから、幼子のような可愛らしい声がした。


「ようこそ、首を長ーくしてお待ちしておりました!」

「えっ?」


 カウンターの中から顔を覗かせていたのは、可愛らしい白蛇のパペットだった。

 どうやら、この店の主はずいぶんとお茶目な人物であるらしい。しずくは、少しどぎまぎしながらパペットに話しかけた。


「もしかして、店長さんはパペットがお好きなんですか? 白蛇のパペットなんて珍しいですね。もしかして手作りですか?」

「はて? それはどういう意味でしょう?」

「ん?」

「店長は、ぼくですが」

「んん??」


 ──どうも会話がかみ合っていない気がする。


 しずくが困惑して黙りこんでいると、白蛇のパペットが、ぱたぱたと小さな翼をはためかせながら目の前にやって来た。


「え? パペットなのに、飛んで──?!」

「はじめまして、水瀬(みなせ)しずくさん。ぼくがこの喫茶店の店長です!」

「……は?」

天音(あまね)さんから話は聞いています。今回は快くバイトを引き受けてもらえて、本当に助かりました!」


 声を弾ませた白蛇のパペットが、嬉しそうな顔で短い尻尾を左右に振っている。


「パ、パペットが、生きてしゃべってる?!」



 ──なんと、新しいバイト先の店長は、人ではなく未知の生き物だった。


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