208話 トトスの大活躍
『どうやら、転移させられた人たちは、ここで魔物と戦ったみたいね』
「まさか、本当に彼らと同じ場所に転移できるとは……」
リュトナーの説明によると、転移罠で飛ばされたのは、彼と同じ〈薄暮の星〉に所属する一級冒険者の男性二名と、それぞれ他のチームに所属している二級冒険者の男性二名と女性一名、そしてサナク博士を合わせた計六名だという。
「彼らはいずれも、数多くの迷宮を攻略している熟練した冒険者たちだ。おそらく、容易くやられることはないと思うが……」
『でも、迷宮の奥に進むにつれて魔物の強さは増していくでしょうし、博士を護衛しながら進むとなると、危険度も跳ね上がるはずよ。一刻も早く、彼らを探し出して合流しましょう』
「しかし、そうは言っても、どうやって探せばいいのか──」
深刻な顔をしたリュトナーの目の前に、コサギがにこやかに微笑みながら、自分の手に乗せたトトスを差し出した。
「こういう時は、彼の出番よ!」
「ハリネズミか? ずいぶんとかわいらしいが、それが君の使い魔なのか?」
そんなにひ弱そうな使い魔が一体何の役に立つ? とでも言いたげなリュトナーをよそに、トトスは床の上にしゅたっと降り立つと、しずくたちに片手を上げて合図してから走り出した。
そこから先は、〈道案内の神〉トトスの独壇場だった。
目的地を「転移させられたサナク博士と冒険者たちがいる場所」に設定した彼は、初めての迷宮をものともせずに、一度も迷うことなくスイスイと進む。
その間は、マスターが魔物をいち早く感知して伝達し、それに呼応した〈白い死神〉が氷魔法を容赦なく叩きこむ、という見事な連携が取られ、トトスの行く手を阻む魔物たちは全て、リュトナーや〈烈剣〉の面々が対応する間も無く、片っ端から倒されていた。
「まさか、君のような魔導士が、名を知られることもなく巷に埋もれていたとは──」
「嫌ねえ、そんなに人の顔を見つめないでもらえるかしら」
氷魔法を使っているのはコサギだと思い込み、感嘆と驚きとが入り混じったまなざしを向けているリュトナーの後ろでは、思う存分に魔物を倒して上機嫌になった〈白い死神〉が、しずくの肩の上で楽しそうに体を揺らしている。
「もしかして、お仲間のハリネズミが活躍しているのを、喜んでいるのかな? ミナセの肩の上にいる使い魔が、やけに楽しそうにしているね」
「そ、そうですかね?」
「うむ……。使い魔同士、仲が良いのはいいことだ」
「もし、俺の弟妹たちが見たら、かわいさのあまり連れ帰ってきちまいそうだぜ」
「それは困るきゅる!」
子供やかわいい生き物が大好きな、〈烈剣〉の男性陣が和んでいる中で、紅一点のニーリャだけは、訝しそうに首を傾げている。
「んんー? でも何故かミナセちゃんの肩にいる使い魔から、変わった魔力を感じるようなー? それに、あのハリネズミちゃんって、昔どっかで見たような気がするんだよねー……」
「ええと、それはきっと、お師匠様の魔力が強すぎて、そんな風に感じただけかもしれませんよ? それに、ハリネズミの姿をした使い魔なんて、わりとどこにでもいますから、他の冒険者さんが連れているのを、たまたまどこかで見かけたんじゃないですかね?」
「んー。そう言われてみれと、そんな気もするなー? じゃあ、やっぱりうちの気のせいかー」
「きっとそうきゅる! 気のせいきゅる!」
必死に誤魔化そうとするしずくやネリネと、胸ポケットの中で息を殺しているマスターが、心の中で冷や汗をかいていると、またしても新たな部屋の扉に行き着いたトトスが、『ぷ!』と鋭くひと鳴きしてから、立ち上がった。




