201話 博士の目的
『これ、からい。ちっちゃいのにくわせるなら、はちみついれろ』
「おう。確かに、ちび共に食わせるには、このままだと辛すぎるかもな。もし、また食える機会があったらそうするよ。教えてくれてありがとな!」
しずくに、ギットが幼い弟妹を養っていることを教えられてからは、彼に対する神々の態度はすっかり軟化していた。
事情を聞いて、自分たちが大人げなかったことを反省したマスターからは、「もし、彼の弟妹が気になるのでしたら、この中にしずくさんの料理を入れて持たせてあげると良いですよ」、という照れくさそうな言葉と共に、収納魔法をかけた小袋を手渡されている。
(調査を終えて迷宮から出たら、あの袋に子供が好きそうな料理をいっぱい詰め込んで、〈烈剣〉に渡しておこう)
やっぱりハンバーグは外せないかな? としずくが考えていると、「おや、サナク博士がやって来ましたよ」と、胸ポケットのマスターが囁いた。
「おくつろぎのところを失礼するであります。実は吾輩、君たちにどうしてもお礼を言っておきたいと思いまして、こうしてお邪魔しにきた次第でありますよ」
おしゃれな鼻眼鏡をかけた小柄な猫人族は、見るからに上機嫌のようだ。
「実は、未踏の迷宮探索で疲労が溜まった者たちも、こうして温かくて美味しい食事にありつけたおかげで、気力や活力をだいぶ取り戻せたようなのでありますよ。本当に助かったであります!」
「皆さんに喜んでもらえたのなら何よりです。そういえば、博士がご要望だった魚介のカレーはお気に召しましたか?」
「ええ! それはもう、気に入りましたとも! 吾輩、あまりに美味しくて、二杯もおかわりしてしまったでありますよ!」
お世辞ではないらしく、サナクは目を爛々とさせて鼻息を荒くしながら、しずくの作った魚介カレーの素晴らしさについて力説し始めた。
彼の熱弁を聞いて、しずくたちがあっけに取られていると、ふっと我に返ったサナクがぺたんと耳を伏せ、恥ずかしそうに謝罪した。
「……大変申し訳ない。吾輩、あまりに嬉しかったので、つい我を忘れてしまったであります」
彼は、気まずい様子で、ずれた鼻眼鏡の位置を直すと、上目遣いで言い訳をした。
「ですが、どの料理も、吾輩が我を忘れるほどに美味しかったのでありますよ。初めは、料理係として君たちを同行させることに猛反対していた吾輩の研究仲間や助手、護衛役の一級冒険者たちも、料理を口にするなり、「この決断は英断だった」と吾輩に謝罪しに来たくらいでありますからね!」
サナクは興奮気味に早口でそう話すと、ごほごほとむせた。先程熱弁しすぎたせいで、喉が渇いてしまったようだ。
「蜂蜜入りの桃のアイスティーです。喉に優しいので飲んでみてください」
「これは、どうも──おお、仄かに甘味があって、何とも美味しい紅茶でありますなあ!」
しずくから手渡されたアイスピーチティーに口をつけた猫人族は、喉をごろごろと鳴らしながら、嬉しそうに目を細めた。
「吾輩の母国であるレオーギス帝国では、普段から紅茶が好まれておりますが、これほどまでに美味しいものを飲むのは初めてであります。もしや、この南大陸では、わが国以上に紅茶が好まれているのでしょうか?」
「あ、さあ? 南大陸に来たのは初めてなので、私にはよくわかりません」
「なんと、そうでありましたか。これは失言でありましたな。吾輩の先祖は南大陸で済み暮らしていた種族なので、もしそうであればよいなと思い、つい先走ってしまったでありますよ」
照れているサナクから、意外な事実を聞かされたしずくが、驚いて目を丸くする。
「サナク博士のご先祖様は、この大陸に住んでいたのですか?」
「ええ、実はそうらしいのであります。吾輩がこの地域を調べていたのは、ここに吾輩の先祖が遺した遺跡があるらしい、という情報を得たからなのでありますよ」
サナクが、遠く離れた北大陸からわざわざ調査しにやって来たのは、自分の先祖の謎を解き明かすためであるらしい。




