20話 目が回るほどに忙しい
『む? いかがした、料理長殿』
「済みませんが、あまりしずくさんをびっくりさせないでください。彼女はごく普通の一般人なのですから」
『なんと! それはまことか? 拙者たちの神気神気に触れても平然としておるから、てっきり店長殿に連なる眷属だとばかり思っておった! 料理長殿、不用意に驚かせて申し訳なかった!』
マスターの苦情を受けた侍ゴーレムが、潔く頭を下げてしずくに謝罪する。神という存在でありながらやけに人間くさいのは、元の世界の神様たちとどこか似通っている気がする。
「あ、いえ、こちらこそ、気を使わせてしまってごめんなさい」
「しずくさん、本当に済みませんでした。またしても、ぼくのホウレンソウに不備が──」
「……マスター。お店を閉めたら、きっちり反省会をしようね」
「はい……」
その後も、入れ代わり立ち代わりに、風変わりな客たちが店を訪れた。
テーブルいっぱいの軽食を次々に平らげていくスライムのような形状をした団体客。
オムライスにドバドバとタバスコをかけまくって一心不乱にむさぼるハリネズミ。
アイスコーヒーを飲んで酔っ払うコサギ。
甘いものばかりを注文して悦に入る黒ローブを纏った骸骨(外見だけ見ると死神そのものなのだが、そうではないらしい)、その他諸々──
店を訪れる客がみな異世界の神だと知ってから、緊張で調理する手つきがぎこちなくなりかけたしずくだが、次々と客が押し寄せて注文が引きも切らない状態となって、無我夢中で料理の腕を振るっているうちに、自然といつもの調子を取り戻していた。
(よくよく考えたら、たとえ神様であっても、お客様であることに変わりはないんだもんね。それに、こうしてせっかく足を運んでくれたんだから、たくさん美味しいものを食べて満足してもらいたいし!)
そんなしずくの心意気は、自然と料理の味にも反映されたのだろう。
彼女の料理を大絶賛する客から、おかわりの注文が続出したせいで、三匹のシュクレドラゴンだけでは注文をさばくのが追い付かなくなり、しまいにはマスター自らが注文を取りに行く程、店は大忙しになった。
「ぼくには、調理しているしずくさんの腕が、何本も増殖しているように見えました……」
「何となく言いたいことはわかったけど、気持ち悪い表現はやめようね。確かにピーク時には、自分が料理マシンにでもなったような気がしたけれども」
「あんなにたくさんの神様を見たのは、初めてきゅるー」
「お野菜を作るより忙しかったきゅるー」
「目が回りそうになったきゅるー」
閉店時間の午後四時を回った頃、最後の客を見送ったしずくたちは、ようやく忙しさから解放されてテーブルに突っ伏すと、そのままぐったりと脱力した。
ご覧いただきありがとうございます!
もし面白かったと思っていただけましたら、お星さまをポチっていただいたりブクマやリアクションで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!




