19話 招かれざる客の正体
『だって、やっとおさとうがたべられるとおもってたのに、うそだったってわかったから……』
「だからって、八つ当たりで暴力を振るって、周りに迷惑をかけるのはダメでしょ!」
『でも、さうーのおさとうが……』
死んだ魚のような目で、「おさとう」という言葉を連呼する〈白い死神〉に説教していたしずくが、眉を寄せて首をひねる。
「ねえ、マスター。サウー砂糖って、依存性のある有害な成分でも入っているのかな?」
「いえ。彼が異常に固執しているだけで、ちょっとお高くて美味しいだけの砂糖です」
『おさとう……』
「……。このお客さんにいろいろと問題があることはわかったけど、このまま追い返すのは、さすがにちょっと心苦しいよ──」
「はあ。優しいしずくさんなら、きっとそう言うと思いました」
マスターは、やれやれと苦笑いすると、厳しい顔に戻って小鳥に言い聞かせた。
「良くお聞きなさい。しずくさんに免じて、今回は特別にサウー砂糖を出してあげます。ただし、砂糖だけの注文は受け付けません。うちはあくまで喫茶店なのですから、何か一杯分だけ好きな飲み物を注文しなさい。そうしたら、その飲み物にサウー砂糖を入れてあげますから」
『ほんと? ほんとに、おさとうくれる?』
「ええ。約束します。だからさっさと飲み物を注文しなさい」
『のみもの……』
困っている様子の小鳥に、しずくが助け船を出す。
「えーと、それならミルクティーはどうかな? 苦味が無いから飲みやすいし、お砂糖を入れてもおいしいよ?」
『わかった。それにする!』
オレンジ色のトカゲに料理を出した後、ポピーがサウー砂糖入りの特製ミルクティーを持っていくと、〈白い死神〉はそのつぶらな瞳から大粒の涙をぽろぽろと零し、感極まった様子でつぶやいた。
『さうーのおさとうのにおい……』
白い小鳥は、体をふるふると震わせながら存分にミルクティーの香りを吸い込むと、カツンとティーカップをつついた。すると、たちまちテーブルの周りに冷気が漂い始める。
「あれ? 気のせいかな? なんだか、急に寒くなったような──」
「彼が氷魔法を使ったのです。全く困ったバカ鳥です。氷で砂糖の甘さが薄まるのは嫌だと言うから、せっかくしずくさんが温かくして淹れてくれたと言うのに……」
「まあまあ。あんなに嬉しそうなんだから、私は別に構わないよ」
彼らの視線の先では、〈白い死神〉が泣きながら冷えたミルクティーを味わっている。
『おいしい、おいしい。ゆめにまでみたあじ……』
危険な客だと知りつつも、そのいじらしい様子を見ていると、ついつい頬が緩んでしまう。
「あんなに泣くほど、サウー砂糖が食べたかったんだねえ……」
「絆されてはだめですよ、しずくさん。神のくせに、好物が食べられなかったという理由だけで、破壊活動をするだなんて、本来なら許されないことなのですから!」
「え? 神? それって誰のこと?」
「もちろん、あのサウー砂糖狂いのバカ鳥の事です。テスレンカ法国の神殿で崇拝されている〈氷雪の神〉というのは、実は彼の事なんです」
「ええーっ?!」
会話を聞いていた侍ゴーレムが、驚きの声を上げた彼女を見て笑い出した。
『そうか。料理長殿は知らなかったのでござるな。店長殿の知人として今日この店に招かれた客は、いずれも神と呼ばれる存在なのでござるよ。かく言う拙者も、〈鉱物の神〉として奉じられている身でござる』
「じゃあ、そちらのお客様も?」
しずくがオレンジ色のトカゲに視線を向けると、もきゅもきゅと美味しそうに食後のレアチーズケーキを頬張っていたトカゲが、右前足を上げてこくりとうなずいた。
『左様。トルタタ殿は、普段は煮えたぎる溶岩の中にお住まいになっていて、〈炎熱の神〉として敬われておる』
「ええええええー!」
カウンターの中にいたしずくは、絶叫しながら半分魂を飛ばしかけていた。




