18話 招かれざる客
「何故あなたがここに!? 他のお客様の迷惑です! 店内を飛ぶのはやめなさい!」
驚いて固まったしずくをよそに、マスターが怒りのこもった声で叱責する。
そんな言い方をしたら客が怒るのでは? と心配になったしずくだが、小鳥は特に気を悪くした様子もなく、素直に謝ってきた。
『ごめん。あやまる。このとおり』
「あのー、もしかしてお客様は、このお砂糖がお好きなのですか?」
おずおずと尋ねると、カウンターの上に着地した小鳥は、瑠璃色のつぶらな瞳をキラキラと輝かせ、まるでヘッドバンキングのように何度もうなずいた。
『そう。このおさとう、だいすき! さうーのき、まえは、てすれんかに、たくさんはえてた』
「てすれんか?」
「テスレンカ法国のことを言っているのでしょう。ここからずっと北にある〈氷雪の神〉を信奉する国で、神殿の裏手に、サウーの木の群生地があったはずです」
聞きなれない単語に戸惑うしずくに、すかさずマスターが助け船を出す。
『でも、てすれんかのさうーのき、ほとんどかれた。わずかにのこったき、みがならなくなった。だからたびにでた。でもさうーのき、どこにもみつからなかった……』
「……ごめん、マスター。通訳をお願い」
「彼は、テスレンカに生えていたサウーの木がほとんど枯れて、僅かに残った木も実を付けなくなってしまったので、サウーの木を探して旅に出たようです」
「つまり、お客様はこのお砂糖が食べたい一心で、旅に出たのですね?」
『そう。そしたら、このみせから、さうーのおさとうのけはいがした!』
「気配って──」
しずくが苦笑していると、マスターがいつになく渋い顔つきで小鳥に向かって警告した。
「あなたのサウー砂糖好きは、よく知っていますけどね。この店にあるサウー砂糖を食い尽くすつもりなら、今すぐに叩き出しますよ?」
「ちょっと、マスター! お客さんに対してそんな言い方──」
「いいんですよ、しずくさん。彼にはこのくらい強く言っておかないと駄目なんです。実際、ぼくが招待していないのにも関わらず、サウー砂糖が欲しくてこうして店まで押しかけて来てるんですから」
「え? お客さんじゃなかったの?!」
厳しい顔を崩さないマスターに、しずくがますます困惑する。
この小鳥に対して、彼がこうも一方的に厳しい態度をとるのは、一体何故なのだろう。彼らの間に何か因縁でもあるのだろうか?
しずくが、助けを求めるように店内を見渡すと、三匹のシュクレドラゴンだけでなく、客である侍ゴーレムとオレンジ色のトカゲまでもが、緊張した様子で白い小鳥を見つめていた。
(何だろう、この張り詰めた緊張感は。見た目はこんなにかわいらしいのに、何か問題があるお客さんなのかな?)
訝し気なしずくに気付いたマスターが、スンとした顔で小鳥を見ながら説明する。
「くれぐれも愛らしい見た目に騙されないでください。彼は、権力争いにかまけてサウーの木を枯らせたテスレンカ法国の神官たちに激怒して、広大な神殿を半壊させた凶悪な鳥なんです」
「神殿を半壊させたの?!」
しずくが目を丸くして驚いていると、侍ゴーレムが更に補足する。
『それだけではないぞ。そやつは、サウーの木が生えているという噂を聞きつけて、とある迷宮に潜ったのだが、その噂が偽りだと知った途端に、怒り狂って迷宮の魔物を狩り尽くした暴れん坊なのだ!』
ちなみにその時、運悪く迷宮に潜っていた冒険者たちは、残像しか見えない白い何かの凄まじい暴れっぷりを目の当たりにしてしまい、その恐ろしさのあまり、ひどいトラウマを植え付けられてしまったらしい。
『この一件以来、そやつは〈白い死神〉と呼ばれるようになり、冒険者たちはおろか、拙者たちからも恐れられていおるのだよ』
「うわー……。思っていた以上に、危険なお客様だった」
説明を聞いたしずくは、思わず顔をひきつらせた。




