199話 実はいいお兄ちゃんだった
扉の先にあった通路は見上げる程に天井が高く、大柄な男性が四人並んで進めるくらいに横幅が広かった。
前を行くコサギの後ろには、ネリネとしずく、ドウリグが並んで進み、最後尾はギットとウバンリが勤めている。
『そこ、しるしが付けられた場所には罠があるから、絶対に踏まないようにね』
「う、うん!」
振り返ったコサギから注意されたしずくが、慎重に罠が埋まっている場所を飛び越える。数はそれほど多くないが、しるしが付けられた場所は床や壁など、多岐に渡っているようだ。
「先行している斥候たちが、こうして察知した罠にしるしを付けてくれているんだ」
「普通、迷宮には罠があるものなんですか?」
しずくが小首を傾げると、「そうか、君は初めての迷宮だったか」と、ドウリグが笑いながら説明した。
「ほとんどの迷宮には、必ず何かしらの罠があるよ。最も一般的なのは落とし穴だけど、壁に手をつくと天井から槍が発射されたり毒霧が吹き出したりする、なんて罠もあるよ。他には、宝箱に罠が仕組まれている場合や、〈転移罠〉なんていう危険なものもあるね」
「転移罠、ですか?」
「ああ。転移罠というのは、床に魔法陣が隠されていて、うっかり踏むと全く違う場所や階層に飛ばされてしまうという、とても危険な罠なんだ」
「もしも、今その罠をふんじゃったら、ねりねだけが知らない所へ飛ばされちゃうきゅるか?」
「ああ。一人だけで罠を踏めば、きっとそうなってしまうだろうね。だから、チームの斥候役は、隠された魔法陣にも気付けるよう、魔力探知ができる奴じゃないと務まらないんだよ」
その説明を聞いたネリネは、パッと顔を輝かせると、最後尾を歩くギットを振り返った。
「狐のお兄さんは、凄い冒険者さんだったきゅるね!」
「おう。ちびは、ようやく俺の優秀さに気付いたようだな! もし、先頭にいる美人ちゃんがうっかり罠を見逃しても、俺が必ず気付いて助けてやるよ。だから、安心していいぜ?」
自分の名を耳にしたコサギが、振り返って睨みつけていることに、ギットは全く気付いていない。その様子を見ていたしずくが、小さく苦笑する。
(ギットさんは、ただ失言が多いだけで、悪い人じゃないんだよね)
ドウリグから聞いた話では、彼は両親を病で亡くしており、冒険者の活動で得た報酬で、まだ幼い妹弟を養っているらしい。
(あとで、コサギにもこのことを教えて、ギットさんに対する誤解を解いておこう)
不機嫌そうに歩くコサギを見ながら、しずくはそう心の中で決意したのだった。
「今日の探索は、ここまでとするであります!」
調査団の団長であるサナクが声を張り上げると、冒険者たちは一斉に警戒を解き、自由にくつろぎ始めた。
今夜休憩する場所は、通路の先で見つけた広間のような大部屋で、調査団全員がそろっていても、窮屈さを感じない程度の広さがあった。
この場所を休憩場所にする、と決定を下した時点で、部屋の四方には魔物の侵入を防ぐための結界石が置かれている。
「念のため、ぼくも結界を張りますが、あれだけ大きな結界石が幾つも設置されているなら、複数の一級冒険者で倒すような魔物でも、簡単には入って来られないと思いますよ」
「それなら、今夜は、みんな安心して眠れるね」
ぐっすり眠って疲れを癒してもらうためにも、まずは美味しい夕食を食べておなかと心を満たしてもらいたい──そう考えたしずくは、リュックの中から使い慣れた調理器具と食材を取り出すと、テキパキと調理の準備に取り掛かった。




