198話 初めての迷宮探索
『失礼なヤツね。私は本当の事を言ったのに!』
ぷくっと頬を膨らませたコサギに、恐縮しきりのドウリグとウバンリが謝罪する。
「あいつが、失礼な物言いをしてしまって済まない。だが、どうか気を悪くしないでくれ」
「あれでも、根はとてもいい奴。ただ、とても誤解されやすい」
申し訳なさそうに頭を下げる二人に、しずくとネリネが慌てて言葉をかける。
「だ、大丈夫です。私は別に気にしていませんから!」
「そうきゅる。あの狐のお兄さんが、悪いひとじゃないってことは、ちゃんとわかっているきゅる!」
「……ミナセとネリネは、本当にいい子だなあ」
「うむ。まだ、こんなにも小さいのに、気遣いができる賢い子たちだ」
彼らがそんなやり取りをしている一方で、しずくを軽んじられてむっとした神々は、ギットへどう報復するかを、小声で話し合っていた。
「あの狐人族に、しずくさんの料理はおかわりさせません!」
『彼に貴重なコーヒーは、絶対に飲ませないわ!』
『けーきも、わたさない』
集合を促す男性の叫び声が聞こえて来たのは、コサギのかばんの中にいたトトスが、彼らの子供じみたやり取りに呆れて、小さくあくびをした時だった。
北大陸の大国である、レオーギス帝国の賢者の塔に所属する、歴史学者のサナクが見つけた新しい迷宮は、ケルベラ郊外の岩だらけの荒れ地にあった。
「よく博士はこんな場所を見つけたきゅるね」
感心するネリネに、コサギが説明する。
『今は人が入れるように整備されているけれど、最初に入口を発見した時は、ただの小さな穴にしか見えなかったらしいわよ?』
至る所に転がっている、大きな岩石の隙間で見つけた何の変哲もない穴が、実は迷宮の入口の一部だったらしい。
『地面の下に、こんなに巨大な穴が隠れていたのを知った時は、誰もが驚いたそうよ』
「急に地面が割れたりしなくてよかったきゅる。もし、そうなっていたら、みんな確実に落っこちていたきゅる!」
いよいよ順番が回って来て、ひんやりとした空気が漂う迷宮の入口から、やや狭い階段を下りて行くと、すぐに巨大な縦穴に出た。縦穴の壁には、地下に下りるための石造りの階段があって、先行している冒険者たちが、壁に沿ってらせん状に回りながら降りて行くのが見えた。
『じゃあ二人とも、足元に気を付けながら、ゆっくり付いてきてね』
階段を下りていくコサギの背を見ながら、ぎゅっと手を繋いだしずくとネリネが、慎重な足取りで後に続く。後ろからは、彼女たちの背後を守るように、〈烈剣〉の面々が階段を降りて来ていた。
ずっと進んでいくうちに、地上から差し込む光は徐々に小さくなっていったが、マスターが、コサギの杖の先に明るい光を灯してくれたおかげで、周囲や足元が見えなくなることはない。
時々下から聞こえてくる人の声に耳を澄ませたり、緊張をほぐそうと話しかけてくれるコサギやドウリグと会話をしながら、しずくはゆっくりと階段を下りて行った。
「ふわー! やっと着いた!」
「もう、お外の光がほとんど見えないきゅる」
ようやく長い階段を下りきった先にあったのは、大きな広場だった。
正面奥には見上げるほどに巨大な扉があって、先行した人々はその扉の奥に続く通路を進んでいったようだ。
『この扉の向こう側から、微かに瘴気の気配がするわ』
『ここからさき、まもの、でる』
扉の先に顔を向けたコサギと〈白い死神〉が、目を細めながらつぶやくのを聞いたしずくは、ごくりとつばを飲み込んだ。
「大丈夫です。しずくさんには、ぼくらが付いています」
「う、うん。みんなの事、頼りにしてるからね」
そっとマスターと言葉を交わし、気を引き締めてリュックを背負い直すと、しずくは扉の向こう側へと踏み出した。




