196話 雑用係で採用されました
約束通り、サナクが翌日に寄こした使いの者は、迷宮に潜るのは五日後であることと、当日の集合場所や、同行する際の細々とした約束事を説明してくれた。
『確か、先行するのは、サナク博士がレオーギスから連れて来た一級冒険者たちで、私たちは最後尾から二番目の位置で同行するいうことだったわね』
「調査団の最後尾は二級冒険者さんたちのチームで、背後への警戒と、私たちの護衛を兼ねてくれるみたい」
「ねりねたちは、ごはんを作ったり、けが人が出た時の手当てを手伝って欲しい、って言ってたきゅるね!』
「でも、けが人の手当てって、具体的には何をすればいいのかな? 止血したり、薬を塗ったりするってこと?」
迷宮で振る舞う料理を調理しながら悩むしずくに、マスターが助け船を出す。
「普通、迷宮でけがを負った場合は、治癒魔法や回復薬で治しますが、しずくさんは魔法が使えませんから、けが人に回復薬を飲ませてあげるだけでいいと思いますよ」
「そっか、良かった。そのくらいなら私にもできるよ!」
「ねりねにもお手伝いできるきゅる!」
だが、回復薬は効果の善し悪しににかかわらず、どれもえぐみがあって、とても不味いらしい。
『だから、治癒魔法が使えない冒険者たちは、いつも鼻をつまみながら飲んでいるらしいわよ』
「うわあ……けがして痛い思いをしているのに、さらに不味いものまで口にしなきゃならないなんて、なんだか可哀そうだね」
気の毒に思ったしずくは、「せめて口直しができるように」と、死神はちみつ入りのレモン水を用意しておくことにした。
『では、そろそろ行きましょうか』
「皆様、どうかくれぐれもお気をつけて!」
新しい迷宮に潜る日の朝。
しずくたちは、彼女の作る料理にすっかり魅了された支店長のユノラや従業員たちに見送られながら、ポノックル商会を後にした。
ローブ姿で収納リュックを背負ったしずくは、〈白い死神〉を肩に乗せてネリネと手を繋ぎ、胸ポケットの中にはマスターを潜ませている。
コサギもしずくと同じようにローブを身につけているが、今日は魔導士らしく見えるようにと、先端に白い宝玉をはめ込んだ長い杖を持っている。
ケルベラの街から馬車で郊外の新しい迷宮に向かう途中、マスターが「ぼくや〈白い死神〉がついているので、きっと大丈夫だとは思いますが──」と前置きしたうえで、いつになく真剣な顔でしずくに忠告してきた。
「いいですか? 残念ながら、しずくさんは余りにも弱すぎて、おそらく、この世界で最弱の魔物であるスライムにすら勝てません。だから、迷宮の中では絶対にはぐれないように、くれぐれも気を付けてください!」
『今言われた通り、迷宮の中に入ったら、絶対に私たちのそばからは離れてはダメ。いいわね?』
「う、うん。わかった。絶対に離れないって約束するよ」
いつも余裕の笑みを浮かべている印象が強いコサギからも、怖い程に真剣な顔で念押しされたしずくは、顔を強張らせて、コクコクとうなずいた。
緊張した面持ちのままで、しずくが仲間たちと共に集合場所にたどり着くと、そこには既に、サナク博士を含めた研究者たちの一行と、四、五十名程の冒険者たちが集結していた。




