194話 カレーに吸い寄せられる人々
「やっぱり、ミナセちゃんのカレーが一番美味しいきゅる!」
『ぷぅぷぷぷ!!』
『この辛さ、少しだけ甘くしたカフェオレと一緒に頂くと最高だわあ!』
──そう。彼女が作ったのは、余っていた食材をふんだんに使った、特製カレーだった。
「しずくさん、お疲れ様です。こんなに大量のたくさんカレーを作るのは、さぞかし大変だったでしょう」
「ううん、そんなことなかったよ。野菜や肉を切るのは、ネリネやコサギが手伝ってくれたし、〈刻知らずの宝具〉のおかげで、あんなにたくさんあった具も、あっと言う間に煮込めちゃったしね! こんなに便利な魔道具をもらえて、本当に良かったよ!」
「そうでしたか。では、今度ゼーヴァに会うことがあったら、皇帝に感謝していることをあらためて伝えてもらいましょう」
マスターとしずくの目の前にある魔導コンロには、それぞれ野菜カレーと肉カレーが入った二つの寸胴鍋が並んでいて、とろ火でくつくつと煮込まれているカレーが、食欲を掻き立てる香りを食堂中に振りまいている。
「なるほど、炒めた野菜をしっかりと煮て、スープに溶け込ませることで、素材本来の旨みを引き出しているのですね! それが香辛料の複雑な味わいとうまく絡み合って、これ以上ない美味しさを生み出しています──ああ、どうしましょう。先程からスプーンが止まりません!」
仲間たちだけでなく、ユノラもちゃっかりと同じテーブルでカレーを食べている。
先程から、ぶんぶんと尻尾が揺れっぱなしなので、どうやらお世辞ではなく、本気で絶賛してくれているようだ。
ちなみに、しずくが二日分のつもりで作ったカレーは、早くも残り半分を切っていた。
何故なら、彼女が調理をしているうちに、カレーの香りが表通りまで漏れ出てしまい、食欲を抑えられなくなったポノックル商会の従業員たちが、大急ぎで仕事を切り上げて、そのまま食堂に駆け込んで来たからだ。
「お? あのえらく綺麗な女の子が新しい料理人なのか?」
「馬鹿! あれは、会長の恩人でいらっしゃる、ミナセ様で、今夜は特別にカレーを作って下さったんだよ!」
「これが、今ターラージャ帝国で大流行しているというカレーか! まさか、これほど美味いとは!」
「ああ。これなら、帝国民が毎日行列を作るのも納得だな」
「俺は、あまり辛い物が得意じゃないんだが、カレーは別だ! 美味すぎてついつい口にいれちまう!」
「お前が肉好きなのは知ってるけど、騙されたと思って、こっちの野菜カレーも食ってみろよ。あまりの美味さに目が飛び出るぞ?」
「ホントだ! 少しも肉が入ってないのに、なんでこんなに美味いんだ?!」
カレーを絶賛する従業員たちが一人、また一人とお替りの列に並ぶのを、しずくはにこにこしながら見つめている。
「コサギたちだけでなく、ユノラさんやお店の人たちも気に入ってくれたみたいで、本当に良かったよ!」
「ですが、このままだと、せっかくしずくさんが作ってくれたカレーが、今回の夕食だけで無くなってしまいそうです……」
せっかくあんなに手間暇かけて作ってくれたのに、とマスターは無念そうにしているが、しずくは全く気にしていない。
「別に構わないよ。もしそうなったら、また作ればいいだけのことだもの。料理の作り手としては、美味しく食べてもらうのが一番嬉しいしね!」
「ほう! 君は、まだそんなに若いのに、殊勝な心がけをしているのでありますなあ!」
驚いてしずくが振り向くと、そこに立っていたのは、空になった皿を持つ、人の良さそうな猫人族だった。




