193話 ごはんなら自分で作ります!
「即席でご用意したので、過ごしにくいかもしれませんが──」
『そんなことないわよ。十分過ぎるほどに素敵なお部屋だわ!』
宿泊用にユノラが用意してくれた部屋は、ポノックル商会・ケルベラ支店の社員寮の一室で、大変運が良いことに、つい先日に店員が別の支店に異動になったせいで、四人部屋が空いていたらしい。
急遽運び込んだというベッドはふかふかで、見るからによく眠れそうだった。
「もしかして、普通の宿よりも良い部屋なのでは?」
しずくがつぶやいた通り、室内は清潔に整えられていて、あつらえられた脇机や棚などの調度品は、どれも質の良い一級品のようだった。
『しかも、ここは大通りの裏手だから、うるさくて眠れないこともなさそうだわ』
「最高のおへやきゅる! 眼鏡のおねえさん、どうもありがとうきゅる!」
キラキラと目を輝かせたネリネにお礼を言われたユノラは、初めて出会った時の冷たい顔からは想像できないような、柔らかな笑みを浮かべていた。
「気に入っていただけたようで、安心いたしました。ところで、今夜のお食事はどうなさるおつもりでしょうか?」
『そういえば、特に決めていなかったわね』
「ここに来るまでに、いくつか食堂があったけど、きっと、冒険者さんたちで混み合うよね」
「そうですね……。おそらく、落ち着いて食事をするのは、少し難しいかもしれません」
ユノラは眉を寄せて、難しい顔をした。
「一応、この社員寮の一階にも食堂があるのですが、折り悪く、今は料理人が不在でして」
家族が急な病で倒れたために、しばらくの間、実家に戻っているらしい。
『あら。それなら、ここで寝泊まりしている店員さんは、どうやって食事しているの?』
「ほとんど外食で済ませているようです。もしくは、屋台で食べ物を買ってきたり、自炊したりしているようですね」
自炊、という一言を聞いて、しずくが声を弾ませた。
「それなら、私たちも自炊していいですか? ここにある調理場を使わせて頂いても?!」
「え、ええ。それは、もちろん構いません。あの、もしかして、お客様が調理なさるおつもりですか?」
心配そうな顔をしたユノラに、コサギが得意気に胸を張る。
『大丈夫よ。こう見えて、ミナセは料理の達人なの。さる国の偉い人たちだって、彼女の料理に夢中なんだから!』
『そうきゅるよ! しず……ミナセちゃんの料理は、みんなに大人気きゅる!』
「なんと、そうでしたか!」
驚いたユノラにしげしげと見つめられ、しずくが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「あの、お金は払いますので、ここにある食材をわけてもらうことはできますか?」
「ええ、もちろん構いませんよ。むしろお代は不要ですので、余っている食材を少しでも減らして頂けると助かります」
「本当ですか? どうもありがとうございます!」
深々と頭を下げ、ユノラを恐縮させたしずくは、邪魔なローブを脱いで腕まくりをすると、早速調理に取り掛かった。
彼女が料理すると知って、キラキラと期待のまなざしを向けてきたトトスを見た瞬間に、既に作りたい料理は、彼女の脳裏にひらめいていたのだ。




