185話 食事中に絡まれる
『あら、お兄さんたち、私たちに何か用かしら?』
彼らと目が合ったコサギが余裕のある笑みを向けると、手前にいた冒険者らしき風体の優男が、酒臭い顔を近づけて話しかけて来た。
「いやあ、用って程のことはないんだ。でも、この国では、綺麗な女性が飲んでいるのを見たら、声をかけるのが礼儀だからね」
優男が茶目っ気のある顔でウィンクしてから、柔らかそうな前髪をかき上げると、近くのテーブルにいた女性たちが「きゃあ」と嬉しそうな悲鳴をあげた。
「あの人って、あの有名な二級冒険者のルーグ様よね? まさか、私たち〈黒竜の牙〉と同じ宿だったの?!」
「やだ、みんな凄く男前じゃないの! 全員が強くて格好良いっていう噂は本当だったのね!」
「今この国で一番勢いがあると言われているだけあって、なかなか良い装備を持ってるな。ほら、あのミスリルの剣を見ろよ! きっと、金貨二十枚は下らないはずだぜ?」
しずくたちに声をかけきたのは、どうやら有名な冒険者たちであるようだ。
確か、以前マスターから聞いた話では、冒険者のランクは、一番強いのが「特級」で、あとは順番に「一級」「二級」「三級」「四級」「五級」「初級」に振り分けられていたはずだ。
「二級」ということは、冒険者の強さとしては上の下、といったところなのだろう。
食堂にいる者の視線が自然と集まる中、コサギの隣、テーブルの壁際で料理を突いていたトトスと、羽繕いをしていた〈白い死神〉は、不愉快そうにスっと目を細め、しずくは右隣に座るネリネが彼らの視界に入らぬよう、さりげなく体の位置をずらした。
男たちが近づいて来るのをいち早く察知していたマスターは、既にしずくの胸ポケットに滑り込んで、警戒態勢に入っている。
「へえ、見たところ君は魔導士なんだね。だけど、おかしいな。僕がこんなに美しい女性を見たら、絶対に忘れるはずがないんだが。もしかして、この街には来たばかりなのかい?」
『ええ、そうよ。私たち、昨日初めてこの街に来たの』
コサギが、にっこりと微笑んでそう答えると、ルーグと言う名の優男が破顔した。
「やっぱりそうか! ニュイシーパ! 美しいお嬢さん、チャルトリクへようこそ! お近づきの印に、ぜひ僕らの席で奢らせて欲しいな!」
『あら、どうもありがとう。でも結構よ。見ての通り、私は今、仲間と一緒に食事を楽しんでいるの。だから、他をあたってくれないかしら』
まさか断られるとは思っていなかったのか、ルーグが満面の笑顔のままでピシリと固まった。そばでやり取りを見ていた仲間の魔導士が、ニヤニヤしながら前に出る。
「君、さては、わざとつれない素振りをして、俺らの気を引こうっていう算段なんだろう?」
『はあ? 何を言っているのか分からないわ。何故この私が、無礼で思い込みの激しい酔っ払いの気を引かなければならないの?』
端正な顔をひけらかすような態度の男に、コサギが呆れた目を向けて言い放つ。
『まだわからないの? 酒臭いあなたたちがそばに居ると、せっかくの食事がまずくなって迷惑なの。だから、早くここから立ち去ってもらえるかしら?』
「は?」
一瞬、自分が拒絶されたことが理解できずにいた男は、次の瞬間、顔を赤くして声を荒げた。
「ちょっと綺麗な顔してるからって、いい気になるなよ?!」
「なんて生意気な女なんだ!」
「俺たちは、あの有名な〈黒竜の牙〉なんだぞ?!」
「せっかくこっちから声をかけてやったのに、舐めた態度をしやがって!」
気色ばんだ男たちが、鼻息を荒くして怒鳴り散らすのを見て、ネリネが鼻にしわを寄せる。
「勝手に押しかけてきたくせに、何様きゅるか? 本当に迷惑な酔っ払いきゅる」
「しっ! ネリネ、顔を出しちゃだめ!」
「おい! 今、なんて言った? 俺たちが迷惑だと?!」
耳聡くネリネの声を拾った魔導士が、しずくたちを睨みつけた。
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