180話 チリペッパーソースに夢中のハリネズミ
『一時は、自分を拉致しようとした奴らに、心労で抜けた自分の針を突き刺しに行く! だなんて言い出してね。止めるのが大変だったわ』
「うわあ……」
『あの時は、このままだと堕ち神になるんじゃないかと、私みたいに彼と親しくしていた神々は、みんなヒヤヒヤしていたのよね』
そんな最悪の状態だったトトスを救ったのは、〈喫茶シルエ〉のテーブルに常備されていたチリペッパーソースであったらしい。
『興味本位で料理にかけて初めてあの辛さを味わった瞬間に、今まで心の中に抱えていた闇がぱあっと晴れたんですって! それ以来、料理にチリペッパーソースをかけて食べるのが病みつきになったらしいわ』
「そういえば、彼は初めてうちに来店してくれた時、支払いの際に、大量にチリペッパーソースを購入していましたね……」
『自分の家でごはんを食べるときにかけまくっているみたいよ。でもトトスが言うには、しずくの作る料理とチリペッパーソースの相性が、とにかく最高なんですって』
コサギの肩に登ったトトスが、真剣な顔で何度もうなずいている。
「うーん。まさか、うちのチリペッパーソースに神様の心の闇を払う効能があるとは思わなかったなー……」
「あのチリペッパーソースは、しずくさんのいた世界のものに似せて、ぼくの菜園で手作りしているだけで、特殊な効果は何も無いはずなのですが……」
思いがけない事実を知らされたしずくとマスターは、共に乾いた笑みを浮かべていた。
『そういう訳で、トトスも私と一緒で、あなたたちの喫茶店に助けられているの。だから、もし彼に手伝える事があるのなら、遠慮なく頼って欲しいのですって!』
『ぷ!』
「じゃあ、お言葉に甘えて、引き続き他の本がある場所も案内してもらえますか?」
『ぷぷっ!』
立ち上がって胸を張ったトトスは、しゅっと手を挙げてコサギの肩から飛び降りると、先頭に立って、次の場所へと案内した。
広大な図書館の中を迷うことなく進むハリネズミが、あっという間に目録の本の在りかを探し出していく姿に、しずくは感心しきりであった。
「こんな便利で優秀な権能を持っているのに、トトスさんの神様としての認知度が低いのは、どうしてなのかな?」
『確かに〈道案内〉は優秀な権能なのだけれど、残念なことに弱点があるのよ』
「弱点?」
『この権能は、ある程度具体的な目的地の指定がないと、全く役に立たないの』
首を傾げるしずくに、困ったような笑みを浮かべたコサギが言い添える。
『たとえば、○○山の麓、とか、○○国にある○○城の近くにある街、みたいな指定がないと、目的地を見つけることができないのよ』
「ふむ。つまり、ある程度具体的な指定がないと、権能が働かないのですね」
『だから、今回のように、少なくとも村の名前か、村があった山の名前がわからないと、案内することができないの』
トトスは、村を探すのに自分の力が役に立たないことを、とても申し訳なく思っていたらしい。
それでも、目録に列挙された本を、こうして次々に探し出してもらっているのだから十分に助かっている、としずくが伝えると、ぴたりと立ち止まって彼女を振り返ったトトスは、ぺこりと頭を下げて、照れくさそうにクシクシと顔を掻く仕草をした。
(か、かわいい!!)
こうして、かわいらしいハリネズミに癒されつつ、大図書館の中を歩き回って見つけ出した本は、全部で三十冊あまり。
トトスが見つけてくれた人気の無い読書室に、集めた本を運び入れたしずくたちは、全員で手分けをしながら本に目を通すことにした。
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