179話 トトスの真価
『ぷぷぷ!』
『まずは二階に行くのね』
『ぷぅぷ!』
『階段を上がったら右ね』
『ぷー、ぷぷっ!』
『このまま進んで、七列目の本棚ね』
『ぷぷう、ぷっ!』
『一冊目の本は、この本棚にあるって言っているわ』
「ちょっと待って、いま見てみるね。ええと、これかな? 『古地図でたどる西大陸』──ネリネ、目録に書いてあるのはこの名前で合ってる?」
「あってるきゅる! はりねずみさん、すごいきゅる! 地図を見ていないのに、どうして本がある場所がわかったきゅるか?!」
一度も迷うことなく、すいすいと目的の場所に案内してみせたトトスに、ネリネが尊敬のまなざしを向けている。
『うふふ。びっくりしたでしょう? 実は、このトトスは〈道案内の神〉なの!』
「そっか! だから、ここまで一度も迷わずに案内できたんだね!」
「はりねずみさんは、すごい神様だったきゅるね!」
〈喫茶シルエ〉が、シグベルムやこの西大陸に移転した時、コサギとトトスがいつも早い段階で店を訪れることが出来ていたのは、〈道案内〉の権能によるものだったらしい。
そのことを知ったしずくとネリネが、素晴らしい能力だと感心しながら褒めちぎると、トトスは照れたように両手をにぎにぎした。
そのあまりのかわいらしさに、しずくが悶絶しそうになる。
「うっ! 凄い権能を持っている上に、こんなにもかわいいらしいだなんて……! マスターといい、小鳥さんといい、この世界の神様は、人類を萌え殺す気なのかな!?」
「しずくちゃん、気をしっかり持つきゅる!」
『ふふふふっ! 萌え殺す、だなんて、しずくは本当に面白い事を言うのね! 図書館なのだから静かにしなくちゃいけないのに、思わず声を立てて笑っちゃったわ!』
コサギは、涙を浮かべてひとしきり笑った後で、解せない顔をしたしずくに、声を落として語りかけた。
『でもねぇ、私たちのような神の場合は、あまりにかわいすぎると、それが弊害になることがあるのよね』
「え?」
『有名な神ならいざ知らず、トトスのように知名度の低い神は、見た目がかわいいとナメられるのよ』
「それってどういうこと?!」
『具体的に言うと、見た目がかわいらしいせいで神だと信じてもらえずに、愛玩動物扱いされたりするの』
「ええ……」
トトスの場合、道に迷っている所を助けた者から神だと認識されずに、単に「かわいらしくて頭のいいハリネズミ」だと思われて、お持ち帰りされそうになったり、捕獲して見世物小屋に売られそうになったことが度々あるらしい。
「そ、それはひどい……」
「そんなの悲しすぎるきゅる」
『すみやかに、こらしめるべき。まずは、きゅうしょをねらって──』
「馬鹿鳥はとりあえず黙っていてください。あと、その冷気は抑えるように」
すかさず殺意満々な助言を挟もうとした〈白い死神〉を、マスターがジロリと睨みつける。
『彼の住処がある中央大陸だと、そこそこ名が通っているから、そんなことは起きないのだけれど、以前観光で訪れた東大陸では、道に迷った者や遭難者を助ける度に、そんな目に遭わされていたらしくて。だから、帰って来た時にはすっかりやさぐれていて、目に光が無くなっていたのよね……』
深い闇を抱えて戻って来た時のトトスの姿を思い出したのか、コサギは美しい眉間にしわを寄せて、深いため息をついた。




