175話 帰りたい場所
『ああ~、これこれ、この味よぅ! やっぱり、しずくの淹れたコーヒーは最高だわあ!』
早くも二杯目のコーヒーを飲み干したコサギの顔が、ほんのりと赤く染まっている。
「明日は早いから、おかわりはあと一杯だけだからね?」
『もちろんわかっているわ。ああ、でも本当に美味しいわあ……』
『ぷぅー……』
飲み過ぎを心配しているトトスをよそに、コサギはうっとりと目を閉じ、ほろ酔い気分でコーヒーを味わっている。
そんなコサギを見て笑っていたしずくが、ふと寂しそうな顔をした。
目ざとく気付いたマスターが、心配そうに彼女の顔をのぞき込む。
「どうしました? しずくさん」
「……ちょっとね、コサギがコーヒーを飲んでいるのを見ていたら、急に店の事を思い出しちゃて。ポピーとモモは、ちゃんとご飯を食べているかなあ?」
「何も心配はいりませんよ。しずくさんが作った料理の作り置きがありますし、簡単な料理なら作れるごーちゃんや、いざという時に頼りになるトルタタもそばに付いていますから」
「……うん。そうだよね。私ちょっと心配しすぎだよね。実は、この間マスターがいなかった時もそうだったんだけど、この世界に来てからずっとみんなと一緒だったせいで、誰か欠けているとなんとなく不安になっちゃって……」
「しずくさん……」
その時、ぽてぽてと歩いてそばに来たネリネが、しずくにそっと寄り添った。
「おねぼうさんの村を見つけたら、みんなで一緒に帰るきゅる。ぽぴーやももやごーちゃんたちも、きっと今頃はさびしがっているきゅる」
「……うん、そうだね」
そう言って、ネリネの頭を優しく撫でたしずくは、ふと、冷たい水底で報告を待つエイリナスの姿を思い浮かべていた。
この世界に一切関心を持たないという孤独な神は、今のしずくのように、自分の帰りを待つ者がいるという安心感と、今すぐ会えない淋しさとを、同時に知ってしまったのかもしれない。
だからこそ、はるか昔に気まぐれで訪ねた村を、必死になって探し出そうとしているのではないだろうか。
──もし村が見つからなかったら、おねぼうさんは、そんな気持ちも全て無かったことにして、また独りぼっちで眠ってしまうのかなあ。
暗い水底で淋しそうに横たわるエイの姿を思い浮かべたしずくは、急に悲しくなって、無意識に温かなネリネの体を抱きしめていた。
そのあともずっと、淋しそうなエイリナスの姿が頭から離れなかったしずくは、自分にしがみつくネリネを抱き人形のように腕に抱えてベッドに入り、そのまま眠ってしまったのだった。
異世界に来て初めて味わうホームシック( ;∀;)
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