174話 酔うならコーヒーがいいらしい
冒険者たちが予約破棄した席でとった夕食は、高級宿の名に恥じぬ美味しさだった。
『みんな、料理は気に入ったかしら?』
「美味しかったきゅる! お魚だけでなく、お肉もあったきゅる!」
「良い食材をふんだんに使っている上に、味付けも上品で美味しかったよ!」
『ぷ!』
「ぼくは、食後に出た、山ぶどうを使ったケーキが印象的でしたかね」
『さうーのおさとうがないのは、ふまん』
『逆にあなたの場合は、サウー砂糖さえ入っていれば、何でも美味しいのでしょうねえ……』
すっかり満腹になって部屋に戻ったしずくたちは、ベッドや備え付けの椅子に座ってくつろぎながら、料理の感想を熱く語り合った。
『でも、おれ、りょうりも、けーきも、しずくのつくったやつがいい』
『ぷ!』
「そう言ってくれるのはすごく嬉しいけど、さすがにそれは褒めすぎだよ」
『そんなことはないわ! コーヒーだって、しずくが淹れてくれるほうがはるかに美味しいもの! ここのコーヒーはただひたすらに苦いだけで、全然酔えなかったわ!』
「……あなたが何故コーヒーであんなにも酔っぱらうことができるのか、ぼくはいまだに不思議でなりませんよ……」
しずくの隣でベッドに鎮座するマスターが、とても複雑そうな顔でコサギを見た。
『そんなの、私自身にもわからないわよ。だけど、今までどんなお酒を飲んでも酔えなかったのに、たまたま〈喫茶シルエ〉のアイスコーヒーを飲んでみたら、すぐに気持ち良く酔っぱらうことができたのよね』
「だからといって、毎回アイスコーヒーをピッチャーで頼んで、そのままガブ飲みするのはどうなんでしょう……」
『あら、誰にも迷惑はかけていないのだから、そのくらい大目に見て欲しいわ。とにかく、あなたの店のコーヒーで気持ち良く酔うと、心に溜まったイライラを、すっきり洗い流すことができるのよ』
「あるじ様、『イライラをためるのは堕ち神になる第一歩』って言葉があるきゅる。しずくちゃんのコーヒーを飲んで、堕ち神になることを防げるのなら、大目に見てあげて欲しいきゅる」
「はあ。そう言われてしまうと、ぼくもこれ以上ダメとは言えませんね」
真剣な顔で頼みこんでくるネリネに、思わずマスターが苦笑する。
『ああ、何だか話しているうちにコーヒーが飲みたくなっちゃったわ! ねえ、しずく。お願いだから、口直しにコーヒーを淹れてもらえないかしら?』
「あまりしずくさんに無理を言わないでくださいよ。わざわざコーヒー豆なんて、持ってきているはずが──」
「えっ? コサギがなんでそのことを知っているの?!」
「まさか、豆を持ってきているのですか?!」
驚くしずくたちに、コサギが自慢げな様子で胸を張る。
『うふふ。コーヒー好きの嗅覚を、甘く見てはいけないわよ?』
「あなたは、どれだけコーヒー好きなんですか……」
『おつまみは、ナッツ入りのクッキーがいいわ!』
『こいつ、いってること、さけのみといっしょ』
「クッキーはおつまみじゃなくて、おやつきゅるよ?」
『そんな細かいことなんてどうでもいいの! コーヒーさえ美味しく飲めれば、それでいいんだから!』
〈白い死神〉やネリネにまで呆れられても、しずくのコーヒーが飲めると大喜びのコサギは、どこ吹く風であった。




