173話 宿をさがそう!
大図書館の近くにある通りは、屋台に夕食を食べに来た客や、宿を探す客でごった返していた。自分たちの手前を歩いている冒険者の一行が、宿に声をかける度に満室だと断られるのを見ていたしずくとネリネは、だんだんと顔を曇らせていた。
だが、そんな彼らにはお構いなしに、一行の先頭に立つコサギは混み合う通りをスイスイと歩いて行く。そして、ようやく彼女が足を止めたのは、すぐ目の前に大図書館を望む三階建ての宿の前だった。
「ほう。それなりに高そうな宿ですが、しずくさんの身の安全を考えれば、このくらいがちょうどいいのかもしれません」
『一階は食堂になっていて、結構美味しい料理が食べられるの。それに、宿泊費とは別料金になるけど、個室のお風呂も使えるのよ』
「お風呂があるのはすっごく魅力的だね。でも、そんなにいい宿なら、とっくに満室なんじゃない?」
しずくが危惧した通り、コサギに声をかけられた受付の女性は、申し訳なさそうな顔で既に満室であることを告げて来た。だが、何故かコサギはにこにこと笑みを浮かべたままで、なかなかその場を離れようとしない。
困惑している受付女性を気の毒に思ったしずくが、「もうここを出よう」と、コサギに声をかけようとしたその時。
男三人と女一人の冒険者らしき一行が、ドカドカと足音を立てながら二階から降りて来た。
「あの、お客様、どうかなさいましたか?」
慌てて受付女性が声をかけると、怒った顔の男が仲間の女性を指さしながら吐き捨てた。
「どうもこうもねえよ! この女がこいつと街でイチャイチャしている隙に、せっかく手に入れたギロウの実を盗まれちまったんだよ!」
「ギロウの実──と言うと、赤熱病の特効薬になる、あの稀少な実のことでございますか?」
「ああ、そうだよ! 苦労を重ねてやっと手に入れたその貴重な実を、この馬鹿どもが酒に酔っているうちに、荷物ごと盗られちまったんだ!」
「街に繰り出して祝杯をあげるのは、ギルドに行って納品を済ませてからにするって、俺らにそう約束したよなあ? なのに、どうしてこうなるんだよっ!?」
激しい剣幕で仲間の男女に悪態をつく男二人に、受付女性がおずおずと問いかける。
「で、では、これから皆様で盗難された品を探しに、お出かけになられるのでしょうか? でしたら、夕食の席のご予約は破棄ということで──」
「ちんたら夕食なんて食ってる場合じゃねえよ! 悪いが宿泊予約も破棄してくれ! 今すぐにブツを取り返さねえと、依頼失敗の罰則を喰らっちまう!」
「ちくしょう! 依頼達成だと思って、せっかく奮発して高い宿を取ったってのによお!」
「だから、さっきから何度も謝っているじゃない!」
「そうだぜ。ちょっと失敗したからって、そんなに目くじらを立てなくたって──」
「うるせえ! ギロウの実を取り戻したら、色ボケしたお前らとは、即刻おさらばだ!」
「え? 嘘でしょ! ちょっと待ってよ!」
激しく口論しながら、彼らが慌ただしく宿を出て行くのを見送った受付女性は、ポカンとしたままで固まっている。
そんな彼女に、美しい微笑を浮かべたコサギが、おもむろに問いかけた。
「あら、ちょうど運良く部屋が空いたみたいね。私たちの宿泊手続きをお願いできるかしら?」




