170話 かわいさが足りない
観光客を相手に、案内役の神官がこの神殿について詳しく説明しているのを聞いていると、〈創造神〉ゼオロビム以外で、特に数多くの者から信仰されているのは、この大陸の南にある、世界最大の活火山・イシュカヌル山を住処とする〈炎熱の神〉トルタタと、グラキリス湖の湖底に眠ると言われている〈水の神〉エイリナス、そして〈金運と財運の神〉タピネであるらしい。
『やっぱり、商業が盛んな国だけあって、お金に関する権能を持つ神は、大人気なのよねえ』
「それはほんときゅるか?! ねりねは何だか誇らしいきゅる!」
「マスターの神像ってどんな感じなのかな? 早く見に行こうよ!」
『あらあら、そんなに急がなくても神像は逃げないわよ』
興奮で頬を上気させるしずくたちが、ごった返す人ごみの中に飛び出していかないよう、しっかりと彼らの手を握り直したコサギは、人波を縫うように進みながら、神像の場所まで連れて行ってくれた。
ちょうど神像の前にいた観光客の一団が、運良く別の場所に移動したおかげで、しずくたちは間近からマスターの神像を見ることができた。
「おお……これは、ずいぶんとシュッとした感じのマスターだね……」
「これだと、普通のへびさんみたいきゅる……」
ネリネが不満げにこぼした通り、目の前の神像は野生の蛇に近い姿で作られており、実際のマスターのようなかわいらしさが欠けていた。
「何と言うか、この像は、マスター特有のころころとした丸みが足りないよね。うん、やっぱり本物のマスターの方が断然かわいいよ」
『しずくちゃんの言う通りきゅる。あるじ様は、もっとつぶらでかわいらしい目をしているきゅる』
「私がもしマスターの神像を作るなら、翼とかこの尻尾のあたりはもっとこう、丸っこい感じに仕上げるけどなあ」
「あの、しずくさん? お願いですから、こうして一緒に居る時に、ぼくを模した像を品評するのはやめてくれませんか? 何と言うか、もの凄く恥ずかしいです……」
しずくの胸ポケットから顔をのぞかせているマスターが、照れているのか、真っ赤になっている。
本当は、もっとじっくり神像を見ていたかったしずくだが、早々と水盆にお布施を入れたマスターが、別の神像を見に行こうとあまりにも急かすので、仕方なく隣の神像に向かうことにした。
「もしかして、これってトルタタさん?」
『実物よりも、かなり大きく作られているきゅる!』
『トルタタは、滅多に人前に出ないから、勝手に姿が誇張されちゃっているのよねえ』
炎を模した台座の上に鎮座しているのは、コモドドラゴンのような、いかにも恐ろしげなトカゲの像だった。
「どう見ても、似ても似つかない姿になっちゃってる……。実際のトルタタさんは、もっと小さくてかわいいのに!」
「きっと、強い神だという印象を前面に出そうとしたら、こんな風になってしまったのでしょう」
「だからって、いくら何でもこれはないと思う。この像はもっとかわいく作り直すべきだよ!」
憤慨するしずくを見て、コサギが可笑しそうに目を細めている。
『うふふ。店に戻ったら、しずくが今言ったことをトルタタに伝えておくわね。実は彼、こっそりあの神像を見に来た時に、自分はこんなに凶暴そうだと思われているのか! ってちょっと落ち込んでいたのよ』
その話を聞いて、トルタタが気の毒になったしずくとマスターは、少し多めにお布施を納めておいた。
ご覧いただきありがとうございます!
もし面白かったと思っていただけましたら、お星さまをポチっていただいたりブクマやリアクションで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!




