169話 神殿見学
「わあ……! 神殿というよりも、なんだか宮殿みたいだね!」
「シグベルムの神殿とは大違いきゅる。すっごく大きいきゅる!」
地球のアブダビにあるグランドモスクを思い起こさせるような壮麗な神殿を前にして、思わず感嘆のため息が漏れる。
多く人々で賑わう広場を抜けて、左右に柱が建てられた広い階段を上がっていくと、五枚の花弁を持つ花が精緻に彫刻されている、巨大な扉の前にたどり着く。
日中の間は、信者や観光客のために開け放たれている扉の左右には、剣で武装した屈強な獣人の歩哨が立っていて、周囲に睨みを利かせていた。
「凄く意外だけど、中に入る時に、お金は取られないんだね」
『そのかわり、自分が信仰する神には、必ずお布施をする決まりなのよ』
「ああ、そういう仕組みなんだ」
神殿内部に足を踏み入れると、ドーム状の高い屋根に設けられた天窓と、色ガラスがはめ込まれた無数の窓から差し込む光が、建物の中を幻想的に彩っていた。
びっしりと美しい彫刻が施された壁には、それぞれを柱で仕切る形で、祭壇と巨大な神像とが複数安置されており、それらの前には白い大理石で作られた大きな水盆が設置されている。
訪れている人々の様子を見るに、お布施はあの水盆の中に入れるようだ。
『正面から見て一番奥に設置されているのが、この世界を創造したと言われている〈創造神〉ゼオロビムの神像で、左右の列に設置されているのはこの国で特に人気がある神々の神像よ』
コサギの説明を聞いたしずくたちは、まず奥に見える神像から見て回ることにした。
「これが創造神ゼオロビムの像なんだ。ずいぶんと大きいね……」
しずくが感心しながら見上げた創造神を模した神像は、他の像に比べてひときわ巨大だった。腰まで伸ばした長い髪を持つ美しい青年が、憂いを帯びた顔で虚空を見つめている。
だが、このゼオロビムという神は、ヴィリオーサの容姿を「恐ろしくて醜い」と散々けなし、彼女が引きこもる原因を作った張本人なのだ。
そのため、しずくはこの神に対してあまりいい印象を持っておらず、「かつてこの世界が瘴気で覆われた時、創造神ゼオロビムが神力を振るって世界の破滅を回避した」という話を聞かされても、素直に信じられないでいる。
コサギたち神々の間では、「神力を使い果たしたゼオロビムは今はどこかの神域に引きこもって休んでいる」と噂されているらしいが、どうせならそのまま引きこもったままでいてほしい、しずくは強く願っている。
(まあ、今は改心しているのかもしれないけど、りりちゃんを傷つけた事を考えると、こうして大勢の人から崇められているのはちょっと納得がいかないなあ……)
難しい顔つきをして神像を睨みつけていたしずくだったが、ふと、ネリネが不思議そうに自分を見上げていることに気付くと「いつまでもこうしていても仕方がないか」と気を取り直し、ようやくほかの神像も見て回ることにしたのだった。




