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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第四章 世界に背を向けたエイと思い出のつみれ汁

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167話 共通のあいさつ

「美味しそうなお魚がいっぱい買えてよかった! これも、コサギが上手に交渉してくれたおかげだね。本当にありがとう!」

『あらあら、そんなに喜ばれると、お姉さんも嬉しくなって、ますますはりきっちゃうわあ』


 珍しい食材を安く手に入れて満面の笑みを浮かべるしずくと、褒められてすっかり上機嫌になったコサギは、店を見て回る間にすっかり打ち解けて仲良くなっていた。


 彼女たちが、楽しそうに腕を組みながら歩いていると、すれ違う者がみな振り返る。


 女性の魔導士であることに加えて美しい顔立ちのコサギが、無邪気に笑みを振りまく姿と、フードの下から見え隠れするしずくの整った容姿に、周囲の者たちの視線が自然に吸い寄せられてしまうのだ。

 中には、思いきって声をかけようとする男たちもいたが、いずれもマスターと〈白い死神〉が殺気を放って追い払っている。


 もちろん、おしゃべりに夢中の彼女たちは、そのことには全く気付いていない。


「ところで、コサギが店の人に声をかける時に使っていた、ニ(・)ュ(・)イ(・)シ(・)ー(・)パ(・)、っていう言葉は、もしかして、この国のあいさつなの?」

『ええ、そうよ。ニュイシーパというのは、よ(・)う(・)こ(・)そ(・)、とか、こ(・)ん(・)に(・)ち(・)は(・)、っていう意味がある古い言葉で、この大陸にある国々で使われている共通のあいさつなの』

「へえ、そうなんだね」

『ちなみに、他に良く使われものだと、お(・)か(・)え(・)り(・)な(・)さ(・)い(・)、とか、ま(・)た(・)会(・)い(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)、という意味を持つ、エ(・)ナ(・)リ(・)ー(・)パ(・)、という言葉があるわ』

「ニュイシーパとエナリーパ、か。私も、次に店で買い物する時に使ってみようかな」

『ぜひそうするといいわ。他国の客が、わざわざこの国の言葉で話しかけてくるなら、きっと店の人も気を良くするだろうしね』


 その後も、いろいろな店を冷やかしながら、コサギから直々に交渉のコツを習ったしずくは、さっそく商人相手に実践しながら、さらに何種類かの魚や珍しい香辛料を格安で手に入れた。

 

 ようやく買い物に満足したらしく、いそいそと財布をローブの内ポケットにしまい込んだしずくを見て、胸ポケットの中からマスターが声をかけた。


「そろそろお昼時のようですから、どこかで食事をしませんか?」

『あら。もうそんな時間? でも、そう言われてみれば、小腹が空いてきたかもしれないわ』

「実はねりねも、さっきからおなかが空いてたきゅる」

「出来れば、庶民的な価格のお店がいいなあ。実は、調子に乗って買い過ぎたせいで、手持ちのお金に余裕がないんだよね……」

「おやおや、そうでしたか」


 恥ずかしそうに告げるしずくに、マスターが優しい目を向ける。

 自分の正体が〈金運と財運の神〉だと知った後も、今みたいに彼女は決して金を無心しようとしないのだ。


 これまでも、しずくが料理の試作のために買った食材は、全て彼女が〈喫茶シルエ〉で働いて溜めた給金を使って賄(まかな)われている。


 あとで店の必要経費として請求して欲しい、といくら頼んでも、失敗して食材を無駄にするかもしれないから! と言って断ってくる彼女のために、「今回の旅の食事代は全て自分が支払おう」とマスターは固く心に決めていた。


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