166話 チャルトリク王国に到着
「よし! 行っていいぞ」
「チャルトリク王国へようこそ、魔導士殿! ニュイシーパ!」
入国希望の人々が作っていた長蛇の列に並ぶこと、約一時間。
ようやく城壁前の検問所を通過した一行は、魔物の侵入を阻むための、高い防壁に設けられた門をくぐり、無事にチャルトリク王国へと入国した。
「うわあ、いろいろなお店があって、凄くにぎやかだね!」
『ここは、ユイリーパと言う名の、チャルトリク王国の最北端にある街よ』
この街では、毎日近海で獲れた魚や、港に上陸した船の交易品などがやり取りされており、大いに賑わっているらしい。
〈白い死神〉を肩に乗せ、人ごみの中ではぐれないようネリネと手を繋いだしずくは、広い大通りの両端に並ぶさまざまな屋台や出店を見ながら、顔を輝かせている。
見たところ、食べ物屋が多いようだが、中には細工物や工芸品を扱っている店もあるようだ。
肉が焼けるような香ばしい匂いに食欲をそそられていると、シグベルム王国ではほとんど見かけなかった、魚介類の直売店を発見した。
「ニュイシーパ! そこの美しい魔導士様、獲れたての魚はどうだい? 近くの食堂に持ち込んで料理してもらうことも可能だよ!」
『あら、そんなこともできるの? でも、どれも新鮮で美味しそうな分、ちょっとお高いわねえ』
瞳と同じサフラン色の長い髪を持つ美しいエルフ女性が、白い頬に手を添えて、物憂げにため息をつくと、声をかけた店主の顔が真っ赤になった。
「お、おう。それなら、こっちの魚はどうだ? 特別に、二匹で千九百メルダに負けてやるよ。めったに手に入らない高級魚がこの値段ならお買い得だぜ?!」
『うーん、もうひと声といったところかしら。二匹で千五百なら考えてあげてもいいわ』
「くーっ! お客さん、綺麗な顔して容赦ねえなあ! よし、なら千五百で手打ちだ!」
微笑むエルフ美女と、だらしなく鼻の下を伸ばした店主とのやり取りを見学していたしずくが、不思議そうに小首を傾げる。
「素人目に見ても、あんな立派な魚二匹の値段にしては、安すぎるような?」
「はは。確かにあの値段だと、利益はほとんど出ないでしょうね」
「あるじ様は、あのお魚がいくらなのか、知っているきゅるか?」
「あれは、この辺の海域でしか獲れない高級魚ですから、普通であれば三千メルダは下らないでしょうね」
「え? そうなの?!」
「あのおじさん、きっと心の中では泣いてるきゅる」
しずくのローブの胸ポケットから頭をのぞかせた白蛇が苦笑する一方で、魔導士姿の美しいエルフが、商売上手なはずの獣人店主を手玉に取っている様子に、しずくとネリネは感心しきりである。
「自分が美人さんであることを、最大限に生かしているきゅる」
「コーヒーを飲んで酔っ払っている時とは、まるで別人だね──まあ、実際に鳥から人に変身してる訳だけど」
──そう。しずくたちの目の前にいる美しいエルフ女性は、コサギが変化した姿なのだ。




