165話 探索チーム結成
『もうねぇ、みんなして身勝手な願いごとをしてくるくせに、願いが叶わないと平気で文句を言ってくるのよ! そうかと言って、もし願いが叶っても、お礼を言うどころか、さらに新しい願いごとを上乗せしてくるし! 日頃からそんなのばっかりだから、すっごく不満が溜まって、心や体だけでなくお肌の調子まで悪くなっちゃってね。でも、この店のコーヒーを飲むようになってからは、気持ち良く酔っぱらってイライラを発散できるようになったおかげで、体に不調を覚えることがなくなったのよ!』
だから、〈喫茶シルエ〉としずくの淹れるコーヒーには、本当に感謝しているのだ、とコサギは嬉々として語った。
ハリネズミも彼女と同じで、〈喫茶シルエ〉で大好物の辛い料理を食べるという楽しみができたおかげで、日頃のストレスを発散することができるようになったのだという。
『だからねえ、私たち、いつかこの店に恩返しがしたいと思っていたのよ』
『ぷっ!』
トトスと呼ばれたハリネズミが、立ち上がって片手を上げた。
『私たち、普段は中央大陸に住んでいるのだけれど、この大陸には何度も足を運んでいるから、きっと役に立てると思うの!』
コサギは早口でそうまくしたてると、羽をばっさばっさと動かしながら、ぜひとも自分とトトスを連れて行くべきだと力説した。
「でも、村を見つけ出すのに何日かかるかもわからないのに、手伝ってもらうのは申し訳ないというか──」
『やだ! 私たちが勝手に手伝いたいだけなんだから、そんなことは気にしなくていいのよう!』
『ぷ!』
「……じゃあ、その言葉に甘えて、お手伝いをお願いしてもいいかな?」
『うふふ、そうこなくっちゃ! この大陸のことなら、私たちに任せておいて!』
こうして、思いがけない協力者を得たしずくたちは、「おれ、きゅうかもらった。だから、もんだいない」と言い張る〈白い死神〉と、三匹のシュクレドラゴンの中で一番思慮深いネリネを探索チームに加え、さっそく翌日の朝早くに出立することにした。
今回見送りに出たのは、留守番役として店に残るポピーとモモ、〈炎熱の神〉のトルタタである。
「いってらっしゃいきゅる! みんな気を付けるきゅる!」
「ももたちが、ちゃんとお留守番してるから、お店の事は心配しなくていいきゅるよ!」
ポピーとモモが、トルタタを頭に乗せたごーちゃんたちと共に手を振る中、マスターの転移魔法で西大陸の北東の森に移動したしずくたちは、最寄りの国であるチャルトリク王国を目指し、街道を歩いて行くことにした。
『国土が海に面しているチャルトリク王国は、北大陸や中央大陸との間での交易が盛んなの。この西大陸にある国の中で、一番豊かだと言われているわ』
コサギの説明によると、さまざまな国の商人たちでにぎわうチャルトリク王国は、獣人やエルフ、ドワーフ、竜人族、小人族、魚人族、鳥人族、そして夜の活動を主とする夜人族たちが住み暮らす他民族国家なのだという。
『たくさんの人種が入り混じっている中でも、しずくの外見はちょっと目立つから、念のため目と髪の色を変えて、フードを被っていた方がいいかもしれないわね』
『ぷぷ!』
「ええー? そうなの? 元の世界だと、私のような外見の人はいくらでもいたけどなあ」
この世界では、目だけが黒かったり、髪だけが黒い者はわりといるが、目も髪も黒い者はあまりいないらしい。
そのかわり、あちらの世界では見たことがないような、緑色や青色、ピンク色や紫色など、色とりどりの目や髪を持つ者が大勢いるそうだ。
「ぼくもコサギの意見に賛成です。〈喫茶シルエ〉が人々の間で知られるようになってから、外見がヒト族にそっくりなしずくさんの事が噂になってきているようですし」
人気のない森の中、神々に言われるがままに、全身をすっぽりと覆う漆黒のローブを身に着けたしずくは、「身に着けると外見を変えられる」という、〈姿変えの首飾り〉を首にかけた。
すると、フードからわずかに見えていた黒髪が、たちまち水色に変化したのを見て、ネリネがきらきらと目を輝かせた。
「すごいきゅる! しずくちゃんの髪と目の色が、きれいなお空の色になっちゃったきゅる!」
「えっ! そうなの? 私も見たい!」
ワクワクしながら自分のリュックから手鏡を取り出したしずくは、鏡面に映った自分の姿に目を丸くした。
襟足が長めのふわりとしたショートヘアがセミロングに変わり、瞳と髪の色が黒から美しい水色に変わっている。顔つきそのものは変わらないのに、まるで別人のように見える。
「なにこれ、すごい!」
「しずくちゃんが、変身したきゅる!」
大はしゃぎするしずくとネリネを微笑ましそうに見つめていたマスターに、真顔になったコサギが問いかける。
『とりあえず、しずくにちょっかいを出されないよう、私が女魔導士で、しずくは私の弟子、ということにするのはどうかしら?』
「なるほど、それはいい考えかもしれません。瘴気の影響で魔物が多いこの大陸では、魔物討伐の際に、強力な戦力となる魔導士を軽んじる者は、ほとんどいないでしょうからね」
『それに、あなたたちが魔法を使っても、魔導士だからという理由で誤魔化せると思うの』
コサギはマスターから〈白い死神〉に視線を移しながら、そう言った。
「ふむ。ではぼくらは、あなたやしずくさんの使い魔ということにしましょうか」
『あら。神を使い魔にするだなんて、ずいぶんと贅沢な話ねえ』
コサギはさも愉快そうにコロコロと笑うと、「私はどんな姿に変化しようかしら?」と、楽しそうに思案し始めた。
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