163話 気に病む紅色の竜
エイリナスは、それが何か問題か? とでも言いたげな様子で、ぷかぷかと浮かんでいる。
『我が覚えているのは、村がこの大陸のどこかの山中にあったということと、あやつらが小さくて弱々しい獣人だったということだけだ』
「まさか、手掛かりはそれだけなのですか? そんな曖昧な記憶だけで、ぼくらに村を探させるつもりですか?」
『お前は、何をそんなに苛立っておるのだ?』
「……」
エイリナスは、自分の記憶がうろ覚えだったせいで、村を見つけられなかったことを、すっかり忘れているようだ。もし、マスターに手が生えていれば、確実に頭を抱えていたことだろう。
ヴィリオーサはオロオロとしながら半べそをかいているし、他の神々たちはみな、同情のまなざしでマスターを見つめている。
だがその時、店内に漂う気まずい雰囲気を破るように、元気な声を上げたのはしずくだった。
「まあ、わからないものは仕方がない。とりあえず探せるだけ探してみようよ。九百年以上もたっているなら、きっと当時の人は生きていないだろうけど、もしまだ村が残っているなら、子孫が約束を引き継いでいるかもしれないしね」
「……そうですね」
どうにか気を取り直したマスターは、エイリナスに顔を向けて、きっぱりと告げる。
「しずくさんの言った通り、できる限り探してみますが、正直なところ、あまりにも手掛かりが少ないので、見つけ出すことは難しいかもしれません。それでも構いませんか?」
『──わかった。我はそれで構わぬ』
「では、とりあえず、探す期間は三週間としましょう。必ず三週間後にはこの店に戻り、結果をあなたにご報告します」
『承知した。お前たちの助力に感謝する』
仄かに青い光を放ちながら、エイリナスが厳かな声で了承する。
しずくは、なんとか話がまとまったことにほっとしながら、肩の力を抜いた。
その後、マスターとのやり取りを終えたエイリナスが、再び巨大なエイの姿に戻って、グラキリス湖へと去っていくと、泣きべそをかいた小さな紅色のドラゴンが、ぽてぽてとしずくたちに駆け寄って来た。
『本当にごめんなさい! まさかこんなことになるとは思わなくて──』
「あらら、別にりりちゃんが気に病むことはないのになあ」
しずくはゆっくりとかがみ込んで、ぽろぽろと涙を零すヴィリオーサを優しく抱きしめた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。だから、もう泣かないで? りりちゃんは疲れているんだから、私たちの事は気にせずに、今はポリュグ山のお家に帰って、ゆっくりと体を休めないと」
「しずくさんの言う通りですよ、ヴィリオーサ。あなたが水を向けなくても、どのみちエイリナスは村探しを依頼しにきたはずです。だから、気に病む必要などありません。そんなことより、まだあなたには、大地の浄化という大事な役目が残っているのですから、今はしっかり休んで英気を養ってきてください」
「しずくちゃんとあるじ様の言う通りきゅる!」
「おねぼうさんの事は、ねりねたちに任せるきゅる!」
「ももが、店のみんなと一緒に、おねぼうさんの探し物を見つけて来るきゅる! だから、心配はいらないきゅる!」
『……わかりました。みんな、どうもありがとう……』
〈喫茶シルエ〉の面々から笑顔で説得されたヴィリオーサが、ようやく泣き止んだ。
そんな彼女の前に、ごーちゃんがてこてことやってきて、すかさず温かいホットミルクを差し出すと、涙に濡れていた顔にやっと笑みが戻る。
しずくたちは、こっそり視線を交わし合うと、安堵した表情でうなずき合ったのだった。
同じ神様でもだいぶ性格の違うのです(>_<)




