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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第四章 世界に背を向けたエイと思い出のつみれ汁

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160話 これは明らかに営業妨害です!

 マスターに続いて店の外に出たしずくは、〈喫茶シルエ〉をすっぽりと覆い尽くすほどに巨大なエイの姿を、ただ呆然と眺めていた。


『おれ、おどろいた。まさか、こいつがくるとはおもわなかった』

「小鳥さんは、この神様を知っているの?」


 しずくの右肩に乗っている〈白い死神〉は、かわいらしく小首を傾げ、くちばしを開く。


『こいつ、〈みずのかみ〉。いつもは、みずうみでねむってる』

「みずのかみ……あ、〈水の神〉ってことかな?」


 ぱっと顔を輝かせたしずくの左肩に、難しい顔をしたマスターが、ぱたぱたと舞い下りた。 


「〈水の神〉エイリナス──これまで生きている時間のほとんどを、グラキリス湖の水底で過ごしてきたと言われている、太古(たいこ)の神の一柱です」

「りりちゃんと同じ太古の神か──ということは、かなり力の強い神様なんだね?」

「ええ。ですが、普段の彼は眠ってばかりで、何事にも関わろうとしません。とにかく、この世界に無関心で、およそ七百年に一度目覚める時も、気まぐれに空を周遊するだけで()()()()()()()()()のです」

「何もしないって、力のある神様なのに?」

「ええ。この世界の維持に欠かすことができない、水の権能を持っているにも関わらず──です。エイリナスは、神として世界を維持するという役割を、一切果たそうとはしないのです」


 同じ引きこもりでも、やむを得ない理由で人前に出られなかったヴィリオーサとは大違いです、と語るマスターの眉間には盛大にしわが寄っている。


「そんな神様が、どうしてここに来たのかな?」

「さあ。ぼくにも皆目(かいもく)見当がつきません」

『もしかして、わたしたちが大勢でが彼の領域に立ち入ったことを、怒っているのでしょうか?』


 しずくの隣でエイを見上げているヴィリオーサが、とても不安そうにしている。今にも泣き出しそうだ。


「心配はいりません。もし、彼がそんな理由で押しかけて来たのなら、すぐにぼくが追い返してやりますよ」


 ヴィリオーサにそう言い切るマスターが頼もしい。ぱたぱたと巨大なエイに向かって飛んで行ったマスターは、毅然(きぜん)とした態度で抗議した。


「エイリナス、これ以上ぼくの店の上に居座らないでください! これは明らかに営業妨害です! 今すぐ立ち退かないのなら、問答無用で転移させますからね!」


 そのかわいらしい声が届いたのか、巨大なエイが緩やかに身じろぎしたかと思うと、威厳に満ちた声が辺りに響いた。


『ふむ。お前は確か、〈成金(なりきん)の神〉だったか? そうか、ここはお前の店だったか……』

「……もしかして、わざと馬鹿にしているんですか? ぼくは〈金運と財運の神〉です! 〈成金の神〉ではありません!」

『そうであったか?』


 全く悪びれない様子のエイリナスにマスターが苛立(いらだ)っている一方で、しずくは、成金呼ばわりされたマスターを見て今にも笑い出しそうな〈白い死神〉のくちばしを、しっかりと抑え込んでいる。


「一体何の用があってここに来たのです? 自分に断りなく神々が(つど)っていることを知って、文句でも言いに来たのですか?」

『……。(われ)の湖の近くや、この辺り一帯の瘴気(しょうき)を浄化したのは、〈大地の神〉たちか?』

「ええ、そうですが、それが何か──」

『この店では何を扱っている?』

「……急に話が飛びますね。ここは〈喫茶店〉と言って、飲み物や食事を提供する店です」

『そうか。ならば我も、その飲み物とやらをいただくとしよう』

「は?」

『店の客になれば、お前は我を追い返せまい』



 空から下りて来た声が一方的にそう告げると、店の上空を覆っていた巨大なエイが、みるみるうちに小さく縮んでいく。


(ええ~!?)


 やがて、驚きで目を丸くしたしずくの前に現れたのは、ふわふわと宙に浮きながら、淡い青光を放つ一匹のミズクラゲだった。


ご覧いただきありがとうございます!

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