159話 巨大な来訪者
〈喫茶シルエ〉がカリエンテス大陸──通称〈西大陸〉に移転してから、そろそろ二週間がたとうかという頃。
ようやく、グラキリス湖の西側に広がる〈死の大地〉の瘴気を浄化し終わったヴィリオーサたちは、店を訪れるなり、思い思いにくつろいでいた。
お疲れさま、という気持ちを込めて、彼らには〈りりちゃん印のクリームチーズケーキ〉と好きな飲み物を無料で提供している。
「複数の神で作業しているとはいえ、あれだけ濃い瘴気を浄化した上で、土地の再生まで行ってきたのですから、相当疲れがたまっているはずです」
「そうだよね。みんな、ここに来たばかりの時より、だいぶやつれているもの」
実際に、浄化に協力していた光る毛玉たちが、日を追うごとに萎れていくのを見ていたしずくは、マスターに同意してうなずいた。
今ヴィリオーサと行動を共にしている神々は、いずれも大地の再生や瘴気の浄化に特化した権能を持っている。そんな彼らがこれほどまでに手こずったのだから、〈死の大地〉の瘴気汚染は想像以上にひどいものだったのだろう。
「ですが、ヴィリオーサたちが懸命に働いてくれたおかげで、近い将来〈死の大地〉は緑豊かな土地に生まれ変わることでしょう」
ほんの数日前まで砂と石しかなかった荒野には、ほんの少しずつだが、草花が根づき始めている。
「みんな、せめてこの店では、美味しいものを食べながら、のんびりしてもらいたいな」
「そうですね。ヴィリオーサの話では、明日からはそれぞれ自分の住処に戻って、しばらく休みを取るそうですから、帰り際に何かお土産を渡してあげると、喜ばれるかもしれません」
「そっか。それなら好きなケーキや軽食をお持ち帰りできるようにしようかな」
「今であれば、カレーライスを希望する者が続出しそうですけどね」
カレーを入れるのにちょうどいい入れ物なんてあったかな、としずくが考え込んでいると、不意に店の外が暗くなった。
「あれ? さっきまで晴れていたのに、どうしたんだろう。雨でも降るのかな?」
「──違います。急に陰ったのは、雲のせいではありません!」
そう告げるマスターの声が緊張を孕んでいる。今しがたまで楽しげにお喋りしていた神々も、ピタリと口を閉じ、真剣な面持ちで窓の外に目を向けている。
「すごく大きな神気を感じるきゅる」
「神気に当てられて体が動かないきゅる」
「ももは、少し怖いきゅる……」
カウンターの中に逃げ込んで来た、三匹のシュクレドラゴンたちは、萎縮して涙目になっている。
「神気を感じるってことは、外に神様が来てるってこと?」
普段から神気に触れても何も感じないしずくが、窓のそばに駆け寄って空を見上げると、 目や口と思しき穴が開いた、白くて巨大な物体が、ゆったりと波打っていた。
(──この魚、水族館で見たことがある!)
日の光を遮るように、店の真上を覆っていたのは、巨大なエイの腹だった。




